2019 Fiscal Year Research-status Report
同時代の災厄を語る オーストリア現代文学における「死者とのコミュニケーション」
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19K13137
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
福岡 麻子 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (40566999)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 災厄 / オーストリア文学 / 物語論 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の予定通り、プロジェクトの初年度に当たる本年度は、1)研究基盤整備を行い、2)オーストリア現代文学における同時代の災厄との取り組みに焦点をあてた調査・考察を主な作業として実施した。また、この過程で合わせて得られた知見を次年度に活かすため、3)オーストリア現代文学における第二次世界大戦との取り組みという観点からも小論を発表した。 1)国内外の文献・資料収集(於オーストリア国立図書館、ウィーン大学イェリネク研究所等)、国内外での人的交流という形で、研究基盤整備を行なった。ウィーン大学・ウィーン音楽芸術大学によるエルフリーデ・イェリネク大学横断研究協会の国際研究パートナーにも指名されたことも、研究を進める上での収穫の一つである。 2)作家エルフリーデ・イェリネクを例に、同時代の災厄について語る方途のモデル化を行なった。その際、本研究が主対象とする【オーストリア】文学の特殊性を明らかにするためにも、他文化・他地域との比較(および当該領域の研究者との交流)は必須であると考えられた。そのため、東日本大震災に取り組んだとされる複数文化圏(具体的には日本、フランス)の作品の考察にも着手した。所属大学の協定先であるレンヌ大学におけるワークショップで成果の一端を発表する予定だったが、新型コロナウィルス感染状況に鑑み中止となったため、次年度以降の発表を検討する。また、災厄の語りにおける重要なファクターとして、ジェンダーに着目した考察が必要であることが、次年度以降の課題として明らかになった。 3)自身は戦後生まれの作家パウルス・ホーホガッタラーの小説を扱い、「直接」は体験していない過去の災厄について語る方途の一端を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルス感染状況により、成果発表の機会一つを断念せざるをえなかったものの(上記2)、それ以前の調査・考察は、おおむね順調に行うことができた。上記3)で言及した小論は、その成果の一つである。ウィーン大学イェリネク研究所は本研究にとって重要なアーカイブを持ち、研究上の助言も得ているが、今年度はウィーン大学・ウィーン音楽芸術大学によるエルフリーデ・イェリネク大学横断研究協会の国際研究パートナーにも指名され、国際的な研究基盤整備の点でも、準備を整えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、時間的に隔たれた災厄の〈媒介的な経験〉についての語りの諸相について明らかにする。具体的には、オーストリアにおけるナチズム、そしてその「過去」からの連続性としての現在を主題とした作品を主な考察の対象とする。その際、災厄の語りにとってジェンダーが重要なファクターとなることから、種々の社会的制度に構成される「性」に着目した考察を進める。 新型コロナウィルスの感染状況によっては、資料収集や成果発表において、オンライン等で可能な方法を検討する。
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Causes of Carryover |
研究成果の一端を発表する予定だったワークショップ(於レンヌ大学、2020年3月)、および、資料収集と研究打ち合わせのためのウィーン大学イェリネク研究所訪問(2020年3月)が、新型コロナウィルス感染拡大状況に照らして中止になったため。次年度以降の資料収集、および成果発表にかかる費用に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)