2019 Fiscal Year Research-status Report
18/19世紀転換期ドイツ語圏文学におけるアマゾネスの表象
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19K13138
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
速水 淑子 横浜市立大学, 国際教養学部(教養学系), 准教授 (70826099)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アマゾネス / ジェンダー / 18・19世紀移行期 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一年次にあたる本年度は、18・19世紀転換期以前のアマゾネス・イメージを把握することに注力した。第一に、古代ギリシアにおいてアマゾネスの言及がある文献を渉猟し、とくに前5世紀アテナイにおけるポリスとオイコスの関係の転換に際し、アマゾネス国家イメージが果たした役割をあきらかにした。第二に、大航海時代にアマゾネスが新大陸に実在する部族と捉えられたことに注目し、当時の文学作品および民族誌的記述の分析を通じて、ヨーロッパの人々が新大陸に抱いた恐怖と欲望のイメージがアマゾネスに投影されていることを明らかにした。続いて、これらのアマゾネス像と、18・19世紀移行期のアマゾネス文学を比較した。対象としたのは、カール・クリステッィアン・レッケルト『アマゾネスの歌』、クリスティアン・フェリクス・ヴァイセ『アマゾネスの歌』、フランツ・フォン・ホルバイン『ミリナーーアマゾネスの女王』、ハインリヒ・フォン・クライスト『ペンテジレア』の4作品である。比較を通じて、当時のアマゾネス像のなかに、古代ギリシアおよびルネサンス期に見られた特徴と並んで、①当時市民層に広く受け入れられた男女両極的性役割が見出されること、②家庭に対する祖国の優位という新しい価値観が見出されること、③恋愛の修辞を用いた戦闘描写によって戦争が美化されていること、というこの時代に特有の特徴を指摘した。これらの研究成果は、『思想』2020年6月号に論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、第一年次に当たる本年度は18・19世紀転換期におけるアマゾネス作品の個別の分析を行い、二年次に、アマゾネス・イメージの歴史と19世紀の女性戦士文学の関連を検討することとしていた。しかし作品を分析する過程で、18・19世紀アマゾネス像に特有の側面を明らかにするためには、あらかじめそれ以前のアマゾネス表象史をある程度把握しておく必要があることが判明した。そのため計画を前倒しし、二年次の作業を本年度に行った。具体的な作業は文献収集とその読み込みであった。印刷状況が劣悪で判別の難しい資料も多く解読に時間がかかったこと、参照するべき時代範囲が広く読むべき文献の量が多かったこと、また本年度は本研究課題のほかに、学会・研究会発表5件、論文投稿2件を行ったことから、本研究課題のために予定していたエフォート率を確保するのに苦労した。ただしこれらの研究計画変更を勘案しても、二年次に予定していた調査の成果が得られたことを考えれば、おおむね順調に進展したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、18・19世紀のアマゾネス・イメージをあきらかにするため、アマゾネスを直接扱った同時代の文学作品(韻文2作品と戯曲2作品)のみをを扱った。しかし研究の過程で、当時のアマゾネス・イメージをより立体的にとらえるためには、アマゾネスに隣接するイメージ、すなわちアマゾネス以外の女性戦士や武装した女神、ヨーロッパ諸国家における女性君主のイメージなどについても検討する必要があることがわかった。今後はこれらの表象について調査を進める。 また、今年度は調査対象を文学作品に限定したが、当時のアマゾネス・イメージの全体像を把握するためには、公共建造物に用いられたアマゾネス・モチーフや、絵画・彫像におけるアマゾネスの描かれ方をも参照する必要がある。感染症の影響を見極めつつ、これらの視覚イメージについて調査するためのヨーロッパ渡航を計画している(感染症の影響によっては最終年度に延期)。
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Causes of Carryover |
二年次に予定していた研究範囲を前倒ししたことによって必要となる書籍が増え、またそれらの書籍にやや高額のもの(1万円程度)が多かったため、物品費が予定以上に必要となった。研究計画を前倒ししたことで、今年度は国内での文献調査に注力することとし、予定していた調査旅行を実施しなかった。そのため残額が生じた。 次年度は、感染症の動向を見極めつつ、今年度実施できなかった調査旅行を実施したい。また、必要となる書籍についても引き続き入手していきたい。
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Research Products
(1 results)