2019 Fiscal Year Research-status Report
ステファヌ・マラルメと19世紀末フランスの読書有害論
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19K13141
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
立花 史 慶應義塾大学, 薬学部(日吉), 講師(非常勤) (20749551)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ステファヌ・マラルメ / フランス象徴主義 / フィクションの哲学 / 芸術作品の認知的価値 / ケンダル・ウォルトン / ジャン=マリー・シェフェール / 文学と人生 / ポール・ブールジェ |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、研究の理論的側面を掘り下げ、その成果を春期と秋期の二度の日本フランス語フランス文学会でのワークショップ開催を通じてアウトプットした。 春期には、ウィリアム・マルクスの評論などに詳しい森本淳生氏や分析美学とポピュラーカルチャーに詳しい高田敦史氏と協同して、「文学と人生」と題したワークショップを催した。そこにおいて申請者は、芸術作品が人間にとってどのような意義を持つかについて、すなわち「芸術の認知的価値」の議論について、分析美学から近年のフランスでの文芸評論までサーベイをおこない、その見地からマラルメ作品の「認知的価値」について考察した。 秋期には、フランスにおけるフィクションの哲学の金字塔であるジャン=マリー・シェフェールの『なぜフィクションか?』の翻訳者である久保昭博氏と、春期に引き続き高田敦史氏とを招聘して、「遠くて近いフィクション論の世界」と題したワークショップを催した。そこにおいて申請者は、文学・芸術・美学のほか、法学、社会学、人類学、ゲームスタディーズを巻き込んだ近年におけるフィクションの学際研究を参照した上で、フィクション論の見地からの文学研究のいくつかのアプローチを分類しつつ、作品世界を描き出さないフィクションについてケンダル・ウォルトンがおこなった議論を踏まえ、マラルメ作品の分析を進めた。 秋期のワークショップの成果は、論文にまとめ、3月に「哲学的フィクション論を用いた文学研究――ジャン=マリー・シェフェール、ケンダル・ウォルトン、ステファヌ・マラルメ」として活字化されている。さらに、日本フランス語フランス文学会の会報である『cahier』に、二度のワークショップの成果の概要を報告している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、(1)新たな《治療的》詩人像の下でマラルメの詩作と美学を統合すること、(2)虚構作品の「集団的かつ依存的な消費」という観点から、19世紀末の文脈で、アディクションの議論の掘り下げをおこなうことであった。 文学の治療的価値は、認知的価値の一つであろうから、マラルメにおける治療的なものを考えるには、「芸術作品の認知的価値」の議論を一定程度踏まえておく必要があり、また、フィクションの消費方法の違いを語るためには、まず美学的な見地からフィクションのさまざまな様態について知っておく必要がある。以上の点から、2019年の春と夏に開催したワークショップとそのための準備は、申請者の研究を進める上できわめて重要な理論的な土台を整備したという点で、計画の大きな進展と言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、美学者や文学理論家の手を借りて理論的研究に専念した結果、研究は順調に進展しているが、今後はどうなるかわからない。2020年度は、ポール・ブールジェを中心とする読書有害論の19世紀的文脈の詳しい調査を予定している。専門書の購入や大学図書館の利用を要する作業が多いが、新型コロナ肺炎蔓延の影響でむずかしくなっている。図書館での利用が保証されないため、資料の購入を増やし、上述の調査等を進めてゆく。
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Causes of Carryover |
新型コロナ肺炎が蔓延し始めて、2019年度末に予定していた国外出張に出かけられなくなったため。今後、状況に応じて、国内外の出張のための費用として使ったり、リモートワークワークの設備品購入の費用に当てたりする予定である。
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Remarks |
一つめは、日本ポール・ヴァレリー研究会が運営するブログに依頼されて書いたもの。二つめは、書評紙『週刊読書人』のウェブサイトに掲載されたもの。
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Research Products
(5 results)