2020 Fiscal Year Research-status Report
ステファヌ・マラルメと19世紀末フランスの読書有害論
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19K13141
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
立花 史 慶應義塾大学, 薬学部(日吉), 講師(非常勤) (20749551)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ステファヌ・マラルメ / フランス象徴主義 / インフォグラフィック / ボヴァリズム / インクルージョン / 中性的なもの |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、前年度の理論的側面の研究成果を踏まえて、マラルメの個々の作品の分析と、19世紀末の社会情勢の調査をおこなった。
上半期は、晩期の散文詩『賽の一振り』の重層的な構造についての読解を掘り下げたが、新型コロナの影響で、その成果の一端は、マラルメ研究史の研究成果とともに、『渦動する象徴』(2021年2月刊行)に所収の「田辺元における芸術作品の認知的価値――『マラルメ覚書』と象徴のインフォグラフィックス」に活用した。 下半期は、「挨拶」などの短い韻文詩の読解をおこなったので、先行研究の資料を収集しながら、発表準備を進めている。そして、ポール・ブールジェを含めた当時の社会現象である「読書有害論」に、前年度の理論的側面の研究成果を接続すべく、「ボヴァリズム」の研究にも着手しており、こちらも現地からの資料を取り寄せ中である。 また、以上の成果を発表すべく、2021年10月28~30日に開催されるシカゴ大学での「フィクション・フィクショナリティ研究国際学会」のために準備したproposalが採用されたので、当該日程での成果発表が決定した。 さらに、今年度の研究を通じて、マラルメの非個人的で中性的な作品の持つ倫理性と、現代のカナダやフランスの中立的・中性的な言語コミュニケーションやそれに立脚した文学作品が有する倫理性とが、マラルメやブランショに影響を受けたケベックの女性詩人ニコル・ブロサールらのフェミニズムに接近しつつ生み出す作品群と、フランスのモニカ・ウィティッグやアンヌ・ガレタの前衛的な創作活動とによって、ゆるやかに連続していることが見えてきたため、インクルーシブな書法(l'ecriture inclusive)をめぐる今日のフランス語圏の議論を詳細に辿った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
Covid-19のパンデミックによって深刻な影響を被っている。 中止になった学会がいくつかあったのみならず、オンライン授業のための情報収集、設備投資、授業対応に多くの時間を奪われてしまったため、研究成果は出ていても、発表準備にほとんど時間が割けなかった。 また、フランスの作家や社会の研究であるため、フランスその他の海外の研究情報が必須だが、国外出張はおろか国内出張も自粛せざるをえず、オンライン化していない雑誌論文や購入し取り寄せ中の資料へのアクセスがきわめて困難となっている。スペインの古書店まで探して購入したボヴァリズム研究の貴重な資料も、到着が大幅に遅延している。
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Strategy for Future Research Activity |
資料へのアクセスが制限されているため、調査の範囲をなるべく限定して研究課題を遂行するつもりである。 また、本来はシンポジウムの開催の後に論集を編むことを検討していたが、現在はシンポジウムのオンライン化を進めつつも、最終的な成果発表である論集または単著の刊行を最優先として研究に取り組む定である。
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Causes of Carryover |
Covid-19の影響によって研究活動に大幅な支障が出たため、2020年度分の研究費が余る形となった。具体的には研究に割ける時間の大幅な減少、出張の取り止めのほか、打ち合わせのオンライン化によってコピー費用などが浮いたことなどが挙げられる。 今後も、同様の状況が続くと考えられるため、SIRFF(フィクション・フィクショナリティ研究国際研究学会)での成果発表、シンポジウムのオンライン化のための人件費や設備投資のほかは、論集や単著の刊行に割り当てることとして、そちらの拡充(書誌・年譜・図像や執筆者の追加)に活用する予定である。
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Remarks |
一般向けの平明な内容ではあるが、今日ではポリティカルコレクトネスの文脈でしか捉えられていないインクルーシブな書法=包括書法が、フランス語圏の文学・芸術の歴史と密接な関係にあることを論じ、詳細な一次資料を提示している。
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