2021 Fiscal Year Research-status Report
ステファヌ・マラルメと19世紀末フランスの読書有害論
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19K13141
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
立花 史 慶應義塾大学, 薬学部(日吉), 講師(非常勤) (20749551)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ステファヌ・マラルメ / フランス象徴主義 / ポール・ブールジェ / フェルディナン・ビュイソン / ガブリエル・タルド / 行動嗜癖 / 男性形の総称的用法 / インクルーシブな言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、①「《挨拶》について――マラルメ後期状況詩の和訳と注解」を、2021年10月刊行の『日吉紀要』第73号に寄稿したほか、②マラルメの韻文詩をフィクション理論の見地から分析した昨年の日本語論文の成果をブラッシュアップして、シカゴ大学で開催の国際学会(SIRFF)で、オンラインで発表をおこなった。③"Toute l'ame resumee..."で始まるマラルメの韻文詩の読解を中心として議論を展開した論文を掲載予定で、申請者自身も副編者として関わっている論集『マラルメ新世紀』(仮題)の編集作業を進めていた一方、④申請者自身の研究課題の成果をまとめた著作も準備中だが、こちらは出版社と交渉している最中である。 この4点は、「研究概要」で述べたとおりの内容で、「研究目的」に則して言えば、当時のフランス社会で教育関係者が懸念していた(悪しき)読書の有害性に対する、マラルメなりの処方箋ともいうべき試みを分析したものであると同時に、今日では重要となる「薬物中毒」と「行動嗜癖」との区別にも配慮しながら、中毒や嗜癖との関連で、マラルメや象徴主義関連の作家たちの作品形式と作品内容を整理する作業のメインパートとして位置づけることができる。 また、読書有害論という見地から、革命期以来、女性たちから問いただされてきた、いわゆるフランス語における男性形優位の問題、もう少し専門的に言えば、男性形の総称的用法がおよぼす人間のジェンダーに関わる問題も無視できず、そこで求められるインクルーシブな言語、ニュートラルな言語、通性的な言語というものとの関連で、neutreでimpersonnelな詩学とその実践にたずさわったマラルメの可能やと限界も見極めておいた方がよいとの判断から、言語におけるインクルージョンの議論を調査して、翻訳や執筆をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ対応による忙殺、海外通販で購入した資料の到着の遅れ、論文執筆のほかに引き受けている論集副編者としての作業の影響もある。 また、マラルメを論ずるに当たっての背景情報として、ポール・ブールジェを含めたデカダンス批判の歴史・社会的文脈と、フェルディナン・ビュイソンやガブリエル・タルドの教育論とを、どの程度まで、発表する成果のなかに折り込むかについて、フランス本国での成果発表と、国内での成果発表の双方で、研究の精度と一般読者に向けた読みやすさとの兼ね合いの点からいまだ検討すべき要素がいろいろあるため、来年度も活用して、余裕を持ったペース配分で、成果を形にしてゆく必要があると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
日本語での成果発表か海外での成果発表のどちらか一方を最優先として選択するが、おそらく日本語の報告が先になるだろう。 3部構成を考えていて、第1部では、マラルメの詩学の治癒的な側面に焦点を当てた章のなかで、2020年度と2021年度の論文に仕上げた2つの韻文詩の分析を取り込みつつ、保守派の批評家や教育関係者たちの議論の紹介にもページを割く。第2部では、マラルメの英語研究と神話研究、さらにはパブリック・ドメインに関する研究を整理する。第3部では、『賽の一振り』と視覚の問題、さらにはフィクションの問題を重ねた分析をおこなう形でまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ対応による忙殺、海外通販で購入した資料の到着の遅れ、論文執筆のほかに引き受けている論集副編者としての作業、それにともなって生じた報告書の構成の再検討のため、研究計画の遅れが生じて、当初の使用予定額を使い切ることができなかった。翌年度の使用計画としては、資料調達のための国内外出張と、成果発表の出版費に充てる予定である。
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Remarks |
大学紀要に掲載したものだが、翻訳であるため、論文の項目には掲載できないと判断して、こちらに記述しておく。 書誌データ:【翻訳】パスカル・ジジャックス、ウーテ・ガブリエル、サンドリーヌ・ジュフレ「男性形とその複数の意味:私たちの脳と私たちの社会にとっての問題」(『日吉紀要』74号、2022、pp. 27-52)
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Research Products
(3 results)