2020 Fiscal Year Research-status Report
チェコ女性作家B・M・エリアーショヴァーと日本旅行記・ジャポニズム文学の研究
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19K13142
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
BRUNA LUKAS 実践女子大学, 文学部, 准教授 (10780827)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | エリアーショヴァー / チェコ文学 / 日本近代文学 / 近代日本外交史 / 異文化交流 / ジャポニズム / 翻訳研究 / 網野菊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の2年目にあたる2020年度において、研究代表者はエリアーショヴァーの2度目の日本滞在(1920~1921)と4度目の日本滞在(1929)に着目し、エリアーショヴァー自身の自筆日記その他の遺稿や日本新聞に掲載された記事を分析しながら、この時期のエリアーショヴァーの交流(特に作家網野菊との関係)と活動内容に光を当てた。また、エリアーショヴァーとの関わりを中心に、20世紀の日本におけるチェコ文学の受容や同時代のチェコにおける日本文学の受容を検討し、エリアーショヴァーは両国の文化交流の成立に著しく寄与したことを明らかにした。パンデミックが収束されないなかでも、複数の講演と研究発表を行い、また関連イベントを開催することによって、本研究の成果を学界の内外において発信し、日本とチェコでのエリアーショヴァーの活動とその功績が日本とチェコでより広く知られることに貢献した。以下、今年度の主な研究業績について要約した。 ①共著『花の国への旅』(Cesty do zeme kvetu)の刊行。本書は、エリアーショヴァーの生涯、彼女の旅行と文学営為を概観する最初の著書であり、確実に今後のエリアーショヴァー研究の基盤となる。研究代表者は、従来その存在すら知られていなかった女性旅行家L・ネドバロヴァーやエリアーショヴァーと山田耕筰の交流などを紹介した。 ②1回の講演と3回の研究発表を行い、エリアーショヴァーが見た大正後期と昭和初期の日本とこの時期の交流内容を明らかにした。 ③展示「チェコと日本を結ぶ文学」および関連の講演会を開催し、20世紀の日本でのチェコ文学と同時代のチェコでの日本文学の受容状況と評価を照らし出した。パンデミックを念頭に、展示内容を紹介したビデオを作成し、Youtubeなどで配信した。 ④配信サイト「ノート」でページを作成し、エリアーショヴァーの活動について発信をつづけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の現在までの進捗状況についてはおおむね順調に進展し、研究成果の公表については当初の計画以上に進展している。その理由については以下に説明する。 2020年度もパンデミック状況がつづき、海外出張が許されないため、今年度に予定されていた現地調査ができず、その結果、本研究の基盤となるべくエリアーショヴァーの遺稿・自筆日記その他の資料(プラハ市ナープルステック博物館所蔵)の調査はやむを得ず停止状態となった。このような非常事態において研究代表者は、現地調査を次年度以降に先送りすることを決定し、初年度に収集した資料の分析に注力した。チェコ共和国の国立図書館・モラヴィア州立図書館のデジタル・ライブラリー、また日本では国立国会図書館のデジタル・コレクションその他のデータベースを活用し、エリアーショヴァーの記事その他の同時代の資料を調査した。1929年のエリアーショヴァーの来日を報道した『国民新聞』や『東京日日新聞』の新聞記事など、このような丹念な作業によって複数の新資料を確認することができた。 エリアーショヴァーの個別研究に平行して、エリアーショヴァーによる文学作品の特徴の解明にもつながるジャポニズム文学の研究を継続した。19世紀の終わりと20世紀前半のヨーロッパとアメリカの作家による〈日本もの〉小説を多数入手し、その分析を進めた。希少価値の高い資料もあり、日本国内でこの種の資料を集めて保管する研究機関が少ないことを考えると、本学は今後、その研究の一拠点となることを期待できる。 研究成果の公表について、今年度はチェコ語で共著1点、日本語で講演1回、研究発表3回、展示1回(2部構成)と関連講演会2回(いずれも研究代表者が司会)、さらに展示紹介のビデオを作成、エリアーショヴァーのページ(ノート)の作成・発信があり、当初の計画以上の成果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度と最終年度の2022年度において本研究は、多少の修正を加えながらも、おおむね当初の計画にしたがって資料の収集・調査と研究成果の発表、関連イベントの開催を進めることを目的とする。 2021年度においては、2020年度にパンデミックのため事実上停止状態となった現地の資料調査の再開を目指す。ナープルステック博物館に所蔵される、現時点で研究代表者が未確認の資料の徹底的調査は本研究の根幹となり、旅行家、ジャーナリスト、作家や翻訳家としてのエリアーショヴァーの全貌を浮かび上がらせるためには必要不可欠のものとなる。現地調査の際に、チェコで講演を行い、これまでの研究成果、ことに前年度に新しく確認できたエリアーショヴァーの日本での活躍に関する新資料を紹介することを予定している。また、最終年度に開催予定の「エリアーショヴァー展」(仮名)についてナープルステック博物館の関係者との打ち合わせを行い、展示開催に向けて準備を進めていく。 日本国内では、前年度に講演会や学会で発表した内容をふまえて論文を執筆し、査読付きの研究雑誌(『昭和文学研究』『実践国文学』など)を中心に研究成果を発表する。同時に、2023年の春に刊行を予定している単著『B・M・エリアーショヴァー』(仮名、チェコ語と日本語版)の出版に向けての準備を進めていく。また、配信ウェブサイト「ノート」で昨年度に新設したページを継続活用し、エリアーショヴァーの活動とジャポニズム文学について幅広く発信をつづける。 研究代表者による調査と研究成果の発表に加えて、2021年末に、エリアーショヴァーの小説を含めて19世紀後半~20世紀前半のチェコの男性作家、女性作家による日本旅行記とジャポニズム文学を紹介する展示(会場検討中)を開催し、また、20世紀初頭の中欧ヨーロッパにおける日本文学の初期受容に関する研究集会を開くことを予定している。
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Causes of Carryover |
国内図書館での資料調査もパンデミックのため予定通りに進まず、その結果、350円の未使用額が発生したが、これを次年度に「その他」の費用(コピー代など)として使うことを考えている。
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Remarks |
配信サイト「ノート」でページを作成し、エリアーショヴァーに関する情報やミニエッセー、資料紹介などを行っている(2020年度は8回投稿)。
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