2023 Fiscal Year Research-status Report
戦間期フランス文学におけるジェンダー観の揺らぎと女性作家の社会的スタンス
Project/Area Number |
19K13143
|
Research Institution | Shirayuri University |
Principal Investigator |
村中 由美子 白百合女子大学, 文学部, 准教授 (40791174)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | マルグリット・ユルスナール / ジェンダー / 戦間期 |
Outline of Annual Research Achievements |
「戦間期フランス文学におけるジェンダー観の揺らぎと女性作家の社会的スタンス」と題された本研究は、マルグリット・ユルスナールの作品を中心に、同時代の女性作家たち(クロード・カーアン、ヴァージニア・ウルフら)の作品も踏まえた上で読み取れる新しいジェンダー観を抽出しようとするものである。 2023年度は、19世紀から21世紀に至るまでのフランス書簡体小説をめぐる国際シンポジウムで発表する機会をいただいたため、ユルスナールの初期作品『アレクシス、あるいは空しい戦いについて』(1929)を書簡体小説という形式に着目して再考する機会となった。この小説の発表当時は、アンドレ・ジッドの自伝的作品『一粒の麦もし死なずば』(1926)の出版等によって同性愛が文学的なテーマとして登場し始めた時代であり、ユルスナールは時流に乗ったと言えるが、小説家としての最初の出版作品の主人公として、同性愛者かつ芸術家である人物を選んだことは、本研究にとって大きな意味のあることだと考えられる。同性愛的な気質を妻に告白する書簡体小説の形式を取った本作品には、主人公が従来のジェンダー観にとらわれない自らのありのままの姿を告白することで芸術家としての誕生を果たした過程が描かれていると考えられる。この過程はまさに、本研究で明らかにしようとする「ジェンダー観の揺らぎ」であり、真のジェンダーを受け入れることが芸術の実現につながるというこのテーマが、のちのユルスナール作品でどのように変奏されていくのか、また他の作家の作品とどのように響き合っているのかを今後考えていきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の影響は落ち着き、海外への渡航もしやすくはなってきたものの、依然として先の見通しが立たなかったことで長期の文献調査を実施できていないため。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度必ず実施したいこととしては、アメリカ・ハーバード大学でのユルスナールの草稿調査である。以前の調査で閲覧しきれなかった資料が、本研究にとって非常に重要であることがわかっているため、研究最終年度の本年度に必ず実施したい。 もうひとつの推進方策としては、戦間期にとどまらないフランス女性史の研究である。現在、そのテーマでの翻訳の機会をいただいているため、この作業を通じてジェンダー観の形成を長期的なスパンから再考したい。
|
Causes of Carryover |
計画していた長期のアメリカでの資料調査を行えていないため、次年度使用額が生じている。円安と航空運賃の値上がりで多額の費用がかかることが予想されるため、今年度の資料調査の旅費と図書の購入費で残額をすべて使い切る予定である。
|