2019 Fiscal Year Research-status Report
姉妹をめぐる文学の言説――ドイツ語と日本語の文学を中心に
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19K13146
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮崎 麻子 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (60724763)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 姉妹 / 女性像 / ジェンダー / 東ドイツ / 比較文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
論文と口頭発表を一件ずつ実績として出すことができた。また資料収集が大きく進展した。 論文では、研究計画の第一段階とした、近代小説における大人数の姉妹について、19世紀のイギリスの小説『高慢と偏見』、19世紀アメリカの小説『若草物語』、そして第二次世界大戦中から戦後すぐにかけて日本で書かれた『細雪』の三作品を比較分析した。これらの小説には、それぞれの時代における「新しい女性」の要素とともにフェミニズム的な要素も現れるものの、結婚の規範が女性登場人物の多様性の幅を制限し、規範から外れる姉妹たちを物語の筋のレベルで抑圧してしまう。この分析結果を論じたことで、人数の多い姉妹が登場人物としてフィクション物語に現れることの意味の一端を明らかにでき、本研究全体の最初の一歩を踏み出すことができた。 ドイツのマールバッハ文学資料館がベルリンの壁崩壊30周年を記念して開催した学会に招待され、口頭発表を行った。その準備をする中で、東ドイツ出身の二人姉妹が登場する小説群の存在に気づくこととなり、報告者のかつての研究(文学における東ドイツの想起)と、本科研のテーマとが融合した。そこで「ポスト東ドイツ文学における姉妹の形象」という題名で、J.ショッホとJ.シュトリットマッターの現代小説について発表を行った。両作品においては、姉妹が分断されがちであること、そして姉のほうは東ドイツ時代から存続する権威(元軍人の愛人や、元党員の父親によって体現される)から自由になれないという点が共通している。こうした分析から、姉妹という形象には、女性を従属させんとする権威主義的な秩序・権力システムが備え持つ男性性という問題もみてとることができる、という発見があり、男性性についても知見を深めるべきだという課題が新たに導かれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
論文と口頭発表の実績が出ただけでなく、そこでの考察や、資料収集から、さらに新しい課題や考察すべき問題を具体的に得ることとなった。とりわけ収穫があったのは、マールバッハの学会に招待されたことがきっかけで(ポスト)東ドイツの文化における女性像の問題を捉え直す視点を得たこと、それに関する文献を収集できたこと、そしてさらに19世紀ドイツの姉妹や女性の形象についての文献を集めることができたことである。2019年度に発表した論文では、英語と日本語の近代小説を扱ったが、報告者が専攻してきたドイツ語文学の領域では大人数の姉妹を主要登場人物とした小説が見当たらない。これは何故なのか、そしてドイツ語圏の近代文学(主に19世紀)において登場する女性像はどのようなものなのかを考えるための第一歩となりそうである。 本科研で関連書籍を購入したほか、2019年5月から8月にかけてドイツ学術交流会(DAAD)から助成金を受けてベルリン・フンボルト大学で研究滞在を行ったことにより、ベルリンの大学図書館やベルリン州立図書館などでも資料収集を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度に資料収集が進展したため、2020年度はそこで得た資料の読み込みを進め、主に次の三点に即してジェンダーの問題を考察していきたい。1.ポスト東ドイツ文学における姉妹の形象。2.19世紀ドイツ語圏の小説における姉妹の形象。3.姉妹たちの関係性に関わる文化史・ジェンダー理論。 1に関しては、マールバッハで行った口頭発表の記念論集がドイツ語で刊行される予定となっている。3に関しては、女性どうしの関係性一般についての文化史の文献を調査するとともに、社会全体の権力関係の男性(優位)性がそれにいかに影響しているかという観点で、社会学やジェンダー史の文献も調査に含めたい。 なお、2019年度の終盤に女性像に関する講演会の情報を得て出張を検討し始めていたものの、感染病の流行により講演会が中止となり、出張も行わなかった。他の研究者との議論や情報交換を、後日改めて機会をみつけて行いたい。
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Causes of Carryover |
2019年5月から8月にかけて、ドイツ学術交流会の奨学金を得てドイツでの研究滞在を行うことが、2019年3月になって決まった。その期間の調査や滞在に関する支出は、本科研から行う必要がなくなった。しかし、今回の滞在中に時間の不足のため調査しきれなかった資料収集や、ドイツの研究者との交流継続を改めて行うことを決めた。次年度以降に本科研で改めてドイツでの資料収集と研究交流を行う計画である。 2020年3月には本科研のテーマに関連するシンポジウムに参加・聴講するため東京への国内出張を計画していたが、感染病の流行が理由となって、シンポジウムが延期になってしまった。そのため国内出張の計画をとりやめた。感染病の流行がおさまれば、次年度に延期となったシンポジウムを訪れるために改めて国内出張を行う予定である。 以上二点が主な理由で、本年度は主に旅費を持ち越すこととし、感染病流行の収束後に改めて国外・国内の両方に出張する予定である。
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Research Products
(2 results)