2020 Fiscal Year Research-status Report
姉妹をめぐる文学の言説――ドイツ語と日本語の文学を中心に
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19K13146
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮崎 麻子 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (60724763)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 姉妹 / フェミニズム / ジェンダー表象 / 東ドイツ / 比較文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、資料の読み込みにおいて進捗があった。2019年度にドイツで行った資料収集によって、読むべき資料が多く手元にあることも幸運であった。 第一に、ポスト東ドイツ文学における姉妹の形象について、2019年度にマールバッハでおこなった口頭発表を、論集に掲載するために改稿・加筆する作業をおこなった。論集の刊行はコロナ禍の中、主催者側の事情によって当初より遅延している。その間に、ドイツ文学における姉妹の形象についての先行研究を確認しなおしたり、東ドイツ文学における女性像の問題についての研究書を読むことができた。これらの先行研究をふまえた改稿・加筆作業をおこなうことができた。このテーマ系のさらなる発展を見据えて考えると、東ドイツ時代の資料がさらに必要になってくる。今年度は新たな資料収集に自ら出向くことはできなかったものの、東ドイツ時代の貴重な刊行物に関して、現地在住者の協力を得て、ドイツの図書館に収蔵されている資料のデータを部分的に得ることができた。 第二に、19世紀ドイツ語圏文学における姉妹の形象について。収集した資料を概観したうえで今年度はシュティフターの小説「二人姉妹」を重点として先行研究を調査した。この小説には1845年版と1850年版があり、二つの版で姉妹の関係性について変化がみられることが判明した。 第三に、19世紀アメリカの小説『若草物語』と現代日本のマンガ『海街diary』について、文芸誌『アピエ』に短い批評を執筆した。文芸誌からの依頼に応じたものであり、厳密な意味では学術的成果とはいえないが、現在私が姉妹文学について比較文学的におこなっている思索の一端を綴ったものであり、内容的には本課題の途中経過の一端を示すものになっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、本課題の成果としての刊行論文は出なかったが、資料の読み込みと情報収集においては大きな進捗があった。2019年度にドイツで行った資料収集によって、読むべき資料が多く手元にあることも幸運であった。また、ドイツの図書館に収蔵されている東ドイツ時代の雑誌記事データについて、現地在住者の協力を得て、新たに入手することもできた。 また、2020年6月に日本ドイツ学会のシンポジウム『東ドイツの長い影 東西ドイツ統一から30年』に登壇した際、パネルディスカッションの部で、東ドイツ文学におけるフェミニズムについての話題を提示して先行研究の例を挙げながら、他分野の研究者と情報交換した。 さらに、複数のオンライン学会を視聴して、フェミニズムとジェンダー表象の問題について情報収集を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
(ポスト)東ドイツ文学における姉妹の形象について、2019年にマールバッハでおこなわれた学会の論集が刊行予定である。この改稿・加筆作業において、東ドイツ時代のフェミニズム文学の文化史的な重要性に気づいた。特にクリスタ・ヴォルフの作品群にはたとえ姉妹が登場していなくても、女性像の問題、女性同士の関係性の問題が見いだせる。そしてそれについての先行研究の議論が多く存在しており、これをふまえることは欠かせないと思われる。さらにヴォルフの小説は、他の女性作家たちに大きな影響を与えている。ポスト東ドイツ文学における姉妹小説の例として扱ったユリア・ショッホ『夏の速度で』も、クリスタ・ヴォルフの(東ドイツ時代の)小説の引用を含んでいる。こうした観点から、クリスタ・ヴォルフ作品の調査を本課題の研究の枠内に導入していきたい。 まだ達成できていない企画として、ワークショップがある。本科研をスタートした時点では、比較文学的な視点を強くもつ研究として本プロジェクトを進めるために、自分では主にドイツ文学(及び、日本語と英語の一部の例)を扱いつつ、他言語の文学における姉妹の物語について、それぞれの言語の専門の文学研究者を招いてワークショップを行う計画を立てていた。当初は大阪に招いて開催するものと考えていたが、コロナ禍の終わりが見えない現在、オンライン開催を視野に入れた企画の可能性について検討し始めたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍が続く中、海外出張も国内出張も見合わせたことにより、旅費の使用が先延ばしとなった。
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Research Products
(1 results)