2020 Fiscal Year Research-status Report
International Development of Animal Studies: An Approach from Japanese Literature and Culture
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19K13147
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
江口 真規 筑波大学, 人文社会系, 助教 (30779624)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アニマル・スタディーズ / 比較文学 / 動物の権利 / アニマル・ウェルフェア / 菜食主義 / ヴィーガニズム / 人新世 / 海外における日本文学・日本文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、アニマル・スタディーズ関連文献の収集と精読を行なったほか、授業や研究会を通して、その国際的な動向と文学との関わりについて広く紹介を行なった。筑波大学の授業では、「世界文学と日本文学Ⅱ」・「世界文学と日本文学演習Ⅱ」・「世界の文学・文化と日本2A・2B」の各クラスで動物と文学をテーマとする内容を扱い、合計100名以上の学生とともに議論を行った。授業内で共有された意見や、そこから考えられるアニマル・スタディーズの可能性に関しては、ヒトと動物の関係学会や、動物の権利に関するエストニアの国際学会にて報告を行ない、参加者からのアドバイスや提案を得ることができた。 新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延は、人獣共通感染症として、人間と動物の関係性を再考させるきっかけとなった。アニマル・スタディーズの分野においても、食肉を扱うウェットマーケットのあり方や人間以外の動物への感染、食肉処理と衛生問題、動物実験に基づいたワクチン開発等について議論されている。本研究でも、昨今のCOVID-19と動物をめぐる問題について日本の事例から調査を行なった。日本では、2020年の東京オリンピック開催を機にアニマル・ウェルフェア(動物の福祉)の取り組みが意識されるようになっていた中で、パンデミックとの関連は見逃すことができない。オリンピックの開催を控え、日本におけるアニマル・ウェルフェアの歴史とその文化的な背景はどのように捉えられてきたのか、北海道の畜産農家を舞台とする2019年のテレビドラマ『なつぞら』を中心に分析を行なった。この考察に関しては、イギリスのメディア研究誌(動物とCOVID-19に関する特集号)に掲載される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海外における現地調査は実施できていないものの、関連文献の収集と精読を進めることができた。本年度の主な成果は、文学と動物についての授業に参加した学生から多くの反響があり、アニマル・スタディーズと文学、日本文化との関わり、アカデミズムとアクティビズムのあり方について考察を深めることができた点である。 また、茨城県内での研究者交流や、JSTムーンショット型研究開発事業ミレニア・プログラムの調査課題「ポスト・アントロポセンの価値観・行動様式・科学技術に関する調査研究」において、社会学・生物学・教育学など異なる分野の研究者やアーティストと動物について議論する機会を得られたことも、本年度の研究の成果であり、今後の研究方針を形づくるきっかけとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)アニマル・スタディーズ関連文献の収集と精読、文学作品の分析 海外渡航や現地調査に伴う移動の制限が続くと予想されるため、今後も関連文献の収集と精読を中心に行う。各分野での動物への関心が高まっている状況を受け、当初予定していたアニマル・スタディーズの入門書の刊行を早められるよう、文献研究の成果を原稿に反映させていく。また、アメリカ文学の研究者とともに文学と疫病に関するテーマで研究を進めており、食肉処理場で働くアフリカ系アメリカ人の生活を描いた映画の分析を行い、現在のパンデミック下における人間・動物と労働の問題を合わせて論じる予定である。前年度から引き続き、東日本大震災以後の文学作品に描かれた動物とジェンダーをめぐる問題や、近年の日本のマンガ・アニメ作品の分析にも取り組む。 (2)授業での取り組み 担当する文学の授業では、文学テキストの講読と合わせて、これまで交流のあった複数の分野の教員・研究者や、動物の権利擁護運動に取り組む活動家をゲスト講師として招聘し、動物に関して複数の視点を取り入れながら考察する場を提供したいと考えている。また、学内にいる動物の実態を知るための活動を取り入れた内容も計画している。具体的には、地域猫保護活動サークルやT-PIRC農場(つくば機能植物イノベーション研究センター)の見学、生物の研究を行なう実験室の訪問を予定している。 このように、今後の研究の推進としては、文献研究と授業での活動を両立させながら、本研究課題の主要な問題設定であるアクティビズムとアカデミズムの結びつきを実践的に試みていきたい。授業参加者との対話を重ねることによって、文学研究が現実の環境問題や社会問題への働きかけへとつながるのか、その可能性を見出したい。
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Causes of Carryover |
当初、アニマル・スタディーズを専門とする教育研究機関について、令和2年夏にアメリカでの調査(①Summer Institute for Human-Animal Studiesへの参加、②Animals and Society Instituteとニューヨーク大学での調査)を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響のため海外渡航が難しい状況にある。またアニマル・サンクチュアリなど動物保護に関わるボランティアやインターンシップの現場を調査するためオンラインでは研究の遂行が難しく、次年度以降渡航が可能になる時期での実施を予定している。 国内での学会や研究会、打ち合わせの参加についても、旅費を計上していたが、令和2年度はその多くがオンラインでの開催となり、旅費の支払いが不要となった。
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Remarks |
1)取材協力:「毛布のまち 心あたたか 羊でPR 泉大津市」『朝日新聞』大阪版、2021年1月9日23面
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