2022 Fiscal Year Research-status Report
International Development of Animal Studies: An Approach from Japanese Literature and Culture
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19K13147
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
江口 真規 筑波大学, 人文社会系, 助教 (30779624)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アニマル・スタディーズ / 畜産動物 / 東日本大震災 / アクティビズム / オーストラリア / アニマル・サンクチュアリ / 羊 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、これまでの文献収集によって明らかになった文学研究におけるアニマル・スタディーズの潮流について、他分野との比較を含めて研究発表を行った。また、3年に1度開催される国際比較文学会では、東日本大震災後の畜産農家を描いた文学作品について、学生闘争と反原発運動との関連から論じた口頭発表を行った。本発表については、学術誌への投稿に向けて、より詳細な調査を予定している。 本研究課題では、アニマル・スタディーズの研究・教育活動に見受けられるアクティビズムとの連携やその成果を解明することも目的と一つとしている。そのため、令和4年度には、動物と文学のテーマを扱った授業科目「世界文学と日本文学」での取り組みをもとに、学生が執筆した作品をまとめた『大学のなかの動物たち』を報告書として編集・刊行した。作品の編集にあたっては有志の学生と卒業生の協力を得、また動物の問題に関心のある学生が4か月間調査を行い、「筑波大学動物マップ」を作成した。この活動からは、文学作品を読むことを通して、普段は目に見えない状態に置かれている身近な動物に関心を抱くきっかけとなり、自身の生活にも変化が生じることがわかった。この取り組みの一部については、『物語研究』に寄稿した拙論においても論じている。 令和5年3月には、感染症危険レベルが緩和されたことを受けオーストラリアを訪問し、メルボルン近郊の博物館やアニマル・サンクチュアリを中心に、動物の飼育と展示に関する情報収集を行った。 なお、本研究課題の成果として令和4年度に発表した拙論「アニマル・スタディーズの発展と動向――文学・文化研究とアクティビズムとの関わりから――」(『比較文化研究』第144号)について、2022年度日本比較文化学会奨励賞を受賞し、日本の文化研究分野におけるアニマル・スタディーズの発展に寄与した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに学会や研究会で口頭発表を行ったテーマについて、さらなる調査を行い論文にまとめ投稿する予定であるが、学内業務等の関係により予定よりも遅れている。今後は研究時間を確保できるよう、業務分担の改善に努める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)動物の表象と文学・文化に関する事例の研究:令和3~4年度に学会発表を行ったテーマに関して、さらに調査と考察を深め、論文執筆を進める。具体的には、アメリカの映画Killer of Sheepにおける羊の表象、東日本大震災と畜産農家に関する作品群についてである。 (2)動物の飼育と展示に関する現地調査:令和4年度には、アートの分野におけるアニマル・スタディーズの研究と実践に詳しいメルボルン大学の研究者を訪問し、オセアニア圏における研究の現状や、メルボルン近郊での実践活動について情報交換を行った。メルボルン博物館、移民博物館、国立羊毛博物館では、オーストラリアや地域の歴史について、人と動物(特に羊)、先住民の土地や労働問題、ジェンダーの視点を交えて展示されていることがわかった。また、畜産動物のアニマル・サンクチュアリとしてオーストラリア国内で広く知られているエドガーズ・ミッションを訪問し、人と畜産動物の倫理的な関係性が模索されている状況を知ることができた。日本国内においても、特に近代化以降に進められた羊毛産業に関して、地域の歴史や民族との関わりからどのような文化が形成されてきたのかを知るため、関連施設での現地調査を予定している。このテーマに関しては、2024年7月にシドニーで開催予定の国際学会Minding Animalsでの発表を予定している。 (3)アニマル・スタディーズに関するシンポジウムの開催:予算の状況等を考慮しながら、国内の研究者や活動家を招聘して、「アニマル・スタディーズの発展に向けて:筑波大学「動物学群」シンポジウム」(仮)を開催予定である。日本におけるアニマル・スタディーズの今後の発展の可能性を、研究学園都市・つくばから模索し、文系/理系、大学/産業、アカデミズム/アクティビズムの垣根を超えた交流の場を構築することを目的とする。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、令和2年度にアニマル・スタディーズを専門とする教育研究機関での調査を行う予定であった。また、令和3年度には、国内外の研究者を招聘して研究集会を開催する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響のため、国内外の移動が制限される状況が続いた。学会や研究会、打ち合わせの参加についても旅費を計上していたが、その多くがオンラインでの開催となり、旅費の支払いが不要となった。
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