2021 Fiscal Year Research-status Report
A Basic Study on the Translation of Tosa Nikki
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19K13150
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
大野 ロベルト 法政大学, 国際文化学部, 准教授 (80728915)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 紀貫之 / 土佐日記 / フローラ・ハリス / ウィリアム・ポーター / ウィリアム・ジョージ・アストン / 翻訳 / ジャパノロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題の当初より調査を継続してきた『土佐日記』の最初の翻訳者であるフローラ・ハリスについての知見を、今年度は国際学会であるヨーロッパ日本研究協会での発表The Three Trials of Flora Best Harris を通じて、世界に広く発信することができた。フローラ・ハリスの生涯およびその業績は、英語圏においては国内よりもなお知られていないため、今回の発表には一定の意義があると思われる。 また、ハリスと同時期に活動したジャパノロジストのウィリアム・ジョージ・アストンや、ハリスの没した翌年に『土佐日記』の二番目の翻訳者として世に出ることになるウィリアム・ポーターの業績を整理し、さらには彼らとハリスの関係についても調査を行い、これをもって戦前期における『土佐日記』の翻訳ならびに海外での受容を概略する論文「英語圏における『土佐日記』受容史の概略(戦前編)―アストンとハリスを中心に」をまとめた(出版は4月1日付となったため、業績としては来年度のものとなる)。これにより明治時代から第二次大戦前までの英語圏で『土佐日記』がどのように取り扱われたのかという問題について、初めて十分に明らかにすることができた。 一方、古典の翻訳という問題から派生的に関心を深めていた言葉と文化の結びつきという問題や、言葉の身体性という問題についても検討を続け、その成果である論考「綱渡りする死体 日本語の身体性」を、自らが共編著者となった『Butoh入門』(文学通信、2021)の一章として発表した。同書はいわゆる「暗黒舞踏」を中心的な主題とするものであるが、そのような身体芸術の背後にも古典文学の発展に裏打ちされた日本語の伝統が脈打っていることを、必ずしも文学を専門としない読者に向けて発信できたことは、他領域の研究者に日本語について考えてもらう一つのきっかけとなりうるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
フローラ・ハリスという研究計画の最初でとりあげた翻訳者について新資料の発見があったため、結果として研究計画の前半部分が全体の期間の前半には収まらなくなり、計画後半への着手も必然的に遅れることとなった。ただし、新資料の発見により『土佐日記』が初めて英語に訳された時期はこれまでに想定されていた1891年ではなく1882年であることが明らかになるなど、学術上の意義は認められるものと考えられ、計画の遅延を問題視はしていない。現在はすこしでも遅れを取り戻すべく、可及的速やかに、研究計画の後半に設定していた諸課題と向き合っている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の進捗状況の遅れをより効率的に補うべく研究期間を1年間延長し、令和4年度が最終年度となる。すでに調査を積み重ねている『土佐日記』の戦後の翻訳者、すなわちサージェント、マイナー、マッカラの3名の業績や訳文の特徴、またそれぞれの影響関係などについて、年度内に論文を発表する予定である。また2023年度に刊行予定の国際共著による論集に『土佐日記』に関する一章を英文で執筆することが決定しており、この論文によって本課題の成果を、学会報告ではなく論文の形で広く海外に発信できると思われる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による国際学会の延期ならびにオンライン開催への切り替えにより、旅費のために計上していた予算が概ね未使用となった。加えて日常的な調査活動に関しても回数を減らす必要があったため、日帰り出張などにかかる費用も当初の予想を大幅に下回った。次年度については人流に対する抑制の緩和が見込まれることからある程度まで旅費の使用機会が回復することが見込まれる。必要に応じた他費目への切り替えも含め、早い段階で計画を立て着実に執行する予定である。
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Research Products
(2 results)
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[Book] Butoh入門2021
Author(s)
大野 ロベルト、相原 朋枝
Total Pages
352
Publisher
文学通信
ISBN
978-4-909658-68-5