2019 Fiscal Year Research-status Report
「1965年体制」成立期日韓ポストコロニアル文学における植民地主義批判の比較研究
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19K13153
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
原 佑介 立命館大学, 先端総合学術研究科, 授業担当講師 (40778940)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ポストコロニアル研究 / 植民地主義 / 中西伊之助 / 三・一運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度である2019年度は、朝鮮全土を席巻した抗日民衆運動である「三・一独立運動」100周年の年に当たる。この歴史的時期に鑑み、ポスト帝国日本‐文学の前史としての植民地帝国期の日本文学において「三・一独立運動」がどのように描かれたのかという問題を、代表的なコロニアル作家である中西伊之助に焦点を当てて研究を進めた。 平壌で新聞記者生活を送った中西伊之助は、植民地の鉱山会社や総督府を批判した廉で投獄されるなどしており、韓国併合初期の朝鮮の雰囲気を直接的に知る数少ない作家の一人だと評価できる。朝鮮民衆の暮らしを土台から破壊していくこととなった土地調査事業の様相を現場からリアルに報告するなど、1910年代の朝鮮に関して文学のみならず歴史学の観点からも価値の高いテキスト群を、主に朝鮮を離れた後の1920年代に書き残している。その一つが、中編小説「不逞鮮人」(1922)である。 中西は、「三・一独立運動」の一種の後日談である「不逞鮮人」のなかで、1919年3月以降の宗主国社会における歪められた朝鮮人表象を批判的に叙述した。この作品は、関東大震災のわずか1年前に発表され、大地震の廃墟に上で続発した朝鮮人無差別虐殺事件を予言するかのような迫真的な内容を備えている。このような文学史的重要性を強調すると同時に、その現代的な意義も併せて考察した。 併せて、中西伊之助と並んで最も重要なコロニアル作家の一人である中島敦の文学における朝鮮人表象および関東大震災表象の予備的研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中西伊之助「不逞鮮人」論について、2019年7月に国際日本文化研究センター共同研究「帝国のはざまを生きる一帝国日本と東アジアにおける移民・旅行と文化表象」第2回研究会にて中間報告をおこなった。その後、この中間報告を土台にして研究を進め、2019年10月、統一人文学世界フォーラム学問後続世代学術大会(中国海洋大学、中国青島)にて韓国語による研究発表をおこなった。つづいて2019年12月、日本比較文学会中部・関西支部合同大会にて、日本語による研究発表をおこなった。段階的に進めてきたこれらの研究成果は、韓国語論文にまとめて韓国の学術誌に投稿する予定である。課題としては、この韓国語論文の発表が2020年度にずれこんだ点である。 2020年度以降の準備として、韓国の近代文学研究者ハン・スヨン氏(延世大学)と連絡を取り合い、1920~1930年代生まれの植民者二世・在日朝鮮人・韓国人の代表的な文学者たちの戦後/解放後文学における植民地表象をテーマとする共同研究の準備を進めてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年5月現在、日本語雑誌『抗路』最新号の特集「1950年代を考える」に寄稿する日本語論文を執筆中である。ここでは、これまで総合的研究を進めてきた小林勝を中心に、同じく代表的なポストコロニアル日本人文学者である村松武司の朝鮮戦争体験を分析する。これらの研究成果は、2020年夏に発表される。 今後、韓国では「戦後世代」と呼ばれる1920~1930年代生まれの作家たちのうち、本研究の目的に照らし合わせてとくに重要だと思われる崔仁勲、李浩哲、孫昌渉、そして柳宗鎬に焦点を当て、植民地体験および植民地解放前後の体験の共通性を比較検討し、それを小林勝・村松武司・森崎和江・金時鐘・高史明・李恢成の6名を中心とする日本語のポストコロニアル作家たちの同時代体験との比較研究へと進展させていく計画である。
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Causes of Carryover |
本来の研究計画では、2020年3月に韓国での資料調査を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大に関する非常事態の発生のため、この計画を断念せざるを得なくなった。今後の経緯を見守り、安全が確保できる状態になってから、この計画を実行する。
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