2020 Fiscal Year Research-status Report
「1965年体制」成立期日韓ポストコロニアル文学における植民地主義批判の比較研究
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19K13153
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
原 佑介 立命館大学, 先端総合学術研究科, 授業担当講師 (40778940)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / 在日朝鮮人文学 / ポストコロニアル研究 / 植民地主義 / 小林勝 / 村松武司 / 麗羅 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、戦後東アジアにおける日韓「1965年体制」の前段階としての米占領期から朝鮮戦争期にかけての時期に着目し、おもに1950年代の戦後日本における日本と朝鮮のポストコロニアル作家たちの多様な政治活動と文学活動の連関の比較検討をおこなった。 まず、小林勝と村松武司の朝鮮戦争体験とその後のポストコロニアル文学の展開のつながりを比較分析した成果をまとめ、朝鮮史研究会関西部会にて口頭発表「日本人植民者作家が描いた朝鮮戦争期の日本人と朝鮮人の出会い」をおこなった(2020年5月23日)。その発表の成果を論文「朝鮮戦争反対運動における日本人と朝鮮人の出会い――植民者作家が描いた断層と架橋」として整理し、『抗路』7号(抗路舎、2020年7月公刊)に投稿した。 これを受け、小林勝と麗羅のアジア太平洋戦争体験および朝鮮戦争体験の連関を比較考察した成果をまとめ、国際日本文化研究センター第54回国際研究集会「帝国のはざまを生きる――交錯する国境、人の移動、アイデンティティ」(国際日本文化研究センター)にて口頭発表「日本語文学にあらわれた朝鮮戦争期の朝鮮人越境者――小林勝の反戦運動と麗羅の従軍体験に着目して」(2020年11月14日)をおこなった。この研究成果は、論文集『帝国のはざまに(を)生きる(仮)』(みずき書林)に収録され、2021年度内に公刊される予定である。 また、朝鮮戦争期の朝鮮関連の日本文学のひとつとして、田宮虎彦「朝鮮ダリヤ」に着目し、この作品にあらわれた朝鮮人表象を分析した。その成果をまとめ、日本比較文学会関西支部大会にて口頭発表「日本語文学に描かれた「不逞鮮人」――中西伊之助「不逞鮮人」と田宮虎彦「朝鮮ダリヤ」を中心に」をおこなった(2020年11月28日)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、戦後東アジアにおける日韓「1965年体制」の前段階としての1950年代とりわけ朝鮮戦争期の日本と朝鮮のポストコロニアル作家たちの動向に着目した。戦後日本文学における代表的なポストコロニアル作家である小林勝と村松武司の朝鮮戦争体験をあきらかにした。また、先行研究がほとんどない在日コリアン作家麗羅の朝鮮戦争体験について考察を進めた。本年度は、この三者の動向を手がかりにして、戦後日本におけるポストコロニアル文学の黎明期に、日本と朝鮮の新進作家たちが朝鮮戦争と関わる中でどのように文学活動に入るに至ったのか、その一端をあきらかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年は、関東大震災直後の朝鮮人無差別虐殺事件の100周年である。日本におけるコリアンヘイト言説の歴史的な生成と変遷の過程をあきらかにすることを課題の一つに掲げている本研究では、1920年代の「不逞鮮人」言説の発生と伝播・定着から植民地帝国崩壊、そして1965年までの日本近代文学史においてコリアンヘイト言説とその批判言説がどのようにあらわれたのかをあきらかにする。 2021年度は、中西伊之助「不逞鮮人」と田宮虎彦「朝鮮ダリヤ」を中心とする日本近代文学における「不逞鮮人」言説をテーマにした作品群と、今村栄治「同行者」や金達寿「玄海灘」など朝鮮人文学における同言説の比較分析をおこなう。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の事態により、国内外でのフィールドワークおよび資料収集ができなかったため。 引き続き、新型コロナウィルス感染拡大に関する国内外の状況を慎重に見極めていかなければならないが、その上で、状況が改善した場合、2021年度は韓国ソウルの高麗大学図書館等での資料収集を目的とする出張をおこなう。
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