2020 Fiscal Year Research-status Report
現代日本語における述語と補部の相互作用に関する研究
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19K13155
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
三好 伸芳 実践女子大学, 文学部, 助教 (90824300)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 連体修飾構造 / 名詞句 / 内包性 / 意味論 / テンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題においては、「名詞句と述語との意味的相関の体系化」および「従属節と主節述語との相互作用の解明」の2点を目的として研究を推進してきた。これらのうち、本年度は特に前者の観点からの体系的分析を進め、本格的に後者の観点からの分析に取り組むための理論的な枠組みを整備した。本年度の研究によって明らかになったのは、以下の点である。 まず、「名詞句と述語の意味的相関の体系化」という観点からは、非指示的名詞句の分布に関して新たな知見が得られた。先行研究においては、「昇任人事の対象となる教員は彼だ」のような指定文と「昇任人事の対象となる教員がいる」のような絶対存在文に生起する主語名詞句の指示性は同じものであるとされてきた。しかし、実際にはこれらの名詞句は「存在の前提」の有無で異なっており、指定文の主語名詞句には「存在の前提」が認められるのに対し、絶対存在文の主語名詞句にはそのような解釈は認められない。このような分析に基づき、従来の枠組みで捉えられなかった指定文の振る舞いについても、理論的に一貫性のある説明を与えることが可能となった。 また、「従属節と主節述語の相互作用の解明」という観点からは、内包性に関連する述語の語彙意味的な解釈と従属節の文法的振る舞いの間に密接な関係があることを明らかにした。例えば、「想像する/思い浮かべる」などの述語の項に現れた従属節には「私は、昨日の学会で発表する太郎を想像した」のように発話時基準とも主節時基準ともとれない解釈が見られるだけでなく、「私は、昨日の学会で太郎が発表するところを想像した」のように、非同時解釈を許すトコロ節が現れることができる。これらの述語はいずれも項となった名詞句に不特定的な解釈を許容するという性質を持っており、名詞句と述語の意味的相関関係の分析から得られた知見と従属節の文法的振る舞いとの重要な関連が示されたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は補助事業期間中に「名詞句と述語との意味的相関の体系化」および「従属節と主節述語との相互作用の解明」という2点の目標を達成できるよう研究を推進していたが、これまでの成果を単著として公表するに際し、特に「名詞句と述語の意味的相関の体系化」という点について、極めて大きな進展が見られた。 従来、「私の飼っている犬はこの子だよ」のようなハ指定文と「この子が私の飼っている犬だよ」のようなガ指定文は意味的に等価なものであるとされることが多く、これらの差異が問題にされる場合であっても、その理論的な位置づけについては不明確であった。しかし、本研究の成果により、ハ指定文の主語名詞句には明らかに「存在の前提」が認められるのに対し、ガ指定文の述語名詞句には「存在の前提」が認められないという事実が明らかにされ、そのような振る舞いが理論的にも予測可能であることが示された。 この点は、今後期待される一般的な叙述論の枠組みを構築するうえでも極めて重要である。従来の叙述論においては、特定の時空間のもとで生起する事象を表す叙述とそのような制約のない属性を表す叙述が区別されてきた一方で、指定文はそのような分類で捉えることが困難であるとされてきた。一方で、「名詞句が世界の指示対象を表示しているか」という観点から名詞句を分析すれば、指定文は「名詞句が世界の指示対象を表示していない環境の1つ」として再整理することが可能であり、分裂文とほぼ完全に並行的な形で扱うことが可能になる。 本年度の成果は、名詞句と述語に関連する、より一般的な叙述論の可能性を示唆するものである。以上のような進捗状況を踏まえると、本研究は当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
名詞句と述語の相関関係に関する語彙意味論的体系化に一定の見通しが立ったことを踏まえ、これまで通り主節述語と従属節との相互作用を捉えつつ、より一般的な名詞句論および叙述論の構築を目指す。既にコピュラ文と存在文については本研究によって一定の成果が得られているため、他の動詞述語文や形容詞述語文において、本研究の枠組みが敷衍可能かを検討していく。例えば、日本語の形容詞述語文においても英語などと同様に比較表現やそれに類する文型があることが知られているが、予備的な調査により、比較表現と指定コピュラ文との関連性を示す知見が得られている。このような成果を足掛かりとしつつ、統一的な名詞句・述語理論の整備を試みるとともに、複文研究を志向した成果についても積極的に発信していく予定である。
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Causes of Carryover |
前年度に続き、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、2020年度に予定されていた学会がいずれもオンライン開催となっため、旅費として執行予定だった経費が次年度使用額として残った。 遠隔での研究活動に必要な設備が十分に用意できているわけではないため、当該経費は遠隔での研究活動に使用する予算として充当する。
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