2019 Fiscal Year Research-status Report
ルーマニアとモルドバにおけるブルガリア系住民の言語保持に関する社会言語学的研究
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19K13175
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
菅井 健太 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (20824361)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ブルガリア語 / マイノリティ言語 / 社会言語学 / 言語状況 / モルドバ / ルーマニア / 言語接触 / 言語政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、モルドバにおける調査を中心に、資料収集を重点的に行った。ブルガリア系住民が集中する東部のパルカニ村、および南部のタラクリア市において、ブルガリアの言語文化の保持を支える文化施設やブルガリア語教育を行う集落内の複数の学校を訪問し、関係者に対するインタビューを行ったほか、実際に用いられている教材や教育計画書などの重要な資料の収集も行った。このほか、ブルガリア語方言の母語話者に対するインタビューも実施し、モルドバにおけるブルガリア語方言の使用実態を解明するうえで必須となる口語資料の収集も行った。また、首都のキシナウ市においては、国内のブルガリア系住民の移住史に関わる研究を行うモルドバ科学アカデミーのドゥミニカ氏や言語文化に関わる情報発信を行うジャーナリスト・コスィフ氏とのインタビューを通じて、ブルガリア系住民の言語意識や民族的アイデンティティに関わる貴重な情報や資料を収集した。 これらの調査で得た資料をもとに、特にモルドバ・パルカニのブルガリア系住民がおかれている特殊な言語状況について類型論的な見地から分析を行い、第23回スラヴィスト協会(POLYSLAV)国際会議(ブルガリア・ブラゴエフグラド市)においてその成果を公表した。また、この発表をもとに"Savremennata ezikova situacija v Parkan, Moldova(モルドバ・バルカニにおける現在の言語状況について)"として論文にまとめ、同協会の発行する論集に投稿した。 加えて、これまでに収集したルーマニアで話されているブルガリア語方言資料をもとに、同方言に見られる受動過去分詞を用いた特殊な現在完了形を言語接触の観点から分析し、国際シンポジウム「バルカン東部におけるマイノリティ―言語と文化」(ポーランド・ワルシャワ市)においてその成果の一部を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、モルドバでの調査において、タラクリア国立大学学長や同大学のニコライ・トドロフ准教授など現地協力者の全面的な力添えもあり、言語保持や言語実態に関わる基礎的な資料の収集を順調に行うことができた。一方で、周辺の村落における調査は、時間的な制約から実施することができなかった。その不足分は、次年度に追加調査を実施することで補完する予定である。また、現地調査で収集した資料の整理・分析にもある程度の時間を費やすことができ、その成果の一部はヨーロッパの国際会議において開示したほか、国際学術誌においてもまもなく公表される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、ルーマニア側のブルガリア系集落における調査を重点的に実施するほか、モルドバ・タラクリア市とその周辺の集落における追加調査も行うなど、現地での資料収集を継続して行っていく予定である。しかし、コロナウィルスの影響で国外出張が難しい状況が続けば、予定を変更して前年度までに収集済みの資料をもとにデータ整理や分析をおこなうなど、国内での研究を中心に進める予定である。特に、同じモルドバでありながら、すでに分析を進めているパルカニとは異なる状況にあることが予想されるタラクリアのブルガリア系住民のおかれた現在の言語状況について、歴史的背景を踏まえながら、他地域との比較分析を実施していく。またそれがブルガリアの言語文化の保持にどのような影響を及ぼしているかについても考察を行っていく。並行して、国際会議や国内外の学術誌において、それらの成果を順に公表していくことを計画している。
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Causes of Carryover |
当初予定していた学会への参加をとりやめ、代わりに研究に必要な書籍の購入を行ったものの、わずかに未使用額が生じた。前年度の研究費もあわせて、今年度に当初の予定通りの計画で進めていく。
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