2020 Fiscal Year Research-status Report
ルーマニアとモルドバにおけるブルガリア系住民の言語保持に関する社会言語学的研究
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19K13175
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
菅井 健太 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (20824361)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ブルガリア語 / マイノリティ言語 / 社会言語学 / 言語シフト / 言語接触 / 言語変化 / ルーマニア / モルドバ |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、コロナウィルス感染症の世界的な拡大に伴い、当初予定していたルーマニア及びモルドバでの調査が実施できなかったため、これまでに収集済みの資料のうち特に分量が多いルーマニア側のブルガリア系集落の資料をもとに、現在の言語状況の生じた背景や言語の実態に関わる分析や考察を行った。 まず、ブラネシュティ村におけるルーマニア語への言語シフトに着目した研究を実施した。言語シフトが進行している背景と要因について、ブルガリア語話者の証言の整理と分析を通じて考察を行い、社会・経済・政治的な要因のほかに、話者自身の少数言語に対する態度や民族的アイデンティティも強く関与していると考えられることを指摘した。加えて、言語シフトの背景として、これまで生じてきた言語接触がどの程度の強度のものであったかを明らかにする目的で同地のブルガリア語方言に見られるルーマニア語の借用要素の分析を行い、ある程度強力な言語接触が生じていることが示唆されたが、その一方で圧倒的と言えるほどの圧力が生じたとまでは考えにくいということも確認した。以上の研究成果は、メリトポリ国立教育大学(ウクライナ)が発行する論集、及び北海道大学文学研究院紀要にて公表した。 さらに、バレニ・スルビ村において用いられているブルガリア語方言の実態の分析も行った。今年度は特に同方言に特徴的な未来形の形成法に着目し、先行研究を踏まえながら言語接触及び文法化の観点から慎重に分析を行ったところ、当該の未来形はルーマニアへの移住以前から存在していた可能性がある一方で、より一層文法化していることが確認できるほか、ルーマニア語と並行する特徴が見られることから、接触言語であるルーマニア語の影響をうけて発達したものと結論付けた。この成果は第24回スラヴィスト協会(POLYSLAV)国際会議(オンライン開催)において口頭発表し、その内容は同協会の論集に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、世界的なコロナウィルス感染症の拡大によって、予定していたモルドバ(タラクリヤ市及びその周辺集落)及びルーマニア(バレニ・スルビ村など)における追加調査を実施することができなかったことなどから全体的に当初の予定よりも遅れている。すでに収集済みの資料に基づいて、ルーマニア側のブルガリア系集落の言語状況とその背景についての分析を進めてきたが、さらに研究を進展させていく上では現地でのインタビューに基づく更なる口語資料の収集が不可欠である。また、モルドバ側のブルガリア系集落の言語状況に関わる資料の整理と分析は当初の予定より遅れている点がある。次年度はこの点に注力して研究を進め、順次その成果を公表していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、コロナウィルス感染症の拡大が少しでも収まれば、ルーマニア側のブルガリア系集落(バレニ・スルビ村、ブラネシュティ村など)における言語状況や言語保持のための施策に関わる資料収集や、モルドバ側の集落においてもインタビューに基づく口語資料の収集の実施を計画している。また、これらの現地調査による資料をもとに言語状況や言語保持の実態に関する地域間の比較分析も進め、その成果を国内外の学術誌等で開示していくことを計画している。国外出張が叶わない場合には、インターネットを用いたインタビューなどの調査方法を取り入れることで補うことも検討している。加えて、初年度のモルドバでの調査で収集した資料の分析を一層進展させて、その成果を中心に公表を行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
世界的なコロナウィルス感染症の拡大の影響で国外出張が不可能となり現地調査を実施することができず、またそれに伴い研究自体の進捗も遅延したため。また、参加を予定していた国際学会が延期・中止になってしまい、学会参加に必要な出張費用等が生じなかったため。 次年度使用額は、感染症の状況が許せば今年度実施予定であった現地調査のための国外出張の費用に充てる計画である。このほか、国内外の学会や学術誌での研究成果発表のための費用に充てる予定である。
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