2021 Fiscal Year Research-status Report
ルーマニアとモルドバにおけるブルガリア系住民の言語保持に関する社会言語学的研究
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19K13175
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
菅井 健太 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (20824361)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ブルガリア語 / 社会言語学 / 言語接触 / 言語状況 / 言語景観 / 言語変化 / ルーマニア / モルドバ |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、多言語空間であるタラクリア市(モルドバ)における言語使用の実態や、ルーマニア語との言語接触による影響についての分析や考察を中心に行った。現地調査は感染症の関係で叶わなかったが、現地研究者とオンラインによる研究打ち合わせや代理調査を通じて、その目的の一部を達成した。 まず、タラクリア市における言語状況を言語景観という観点から考察を行った。2019年度の現地調査の際に町中や各施設で撮影した標識や看板などの多数の画像データをもとに、ロシア語、モルドバ(ルーマニア)語、ブルガリア語の使用実態について詳細な分析を行った。その結果、当地における民族間共通語の機能を反映してロシア語表記が優勢である一方で、公的な性格を持つ一部の施設ではブルガリア語が第三言語としてロシア語やモルドバ語と併記される例が見られるほか、ブルガリア文化関連施設ではむしろブルガリア語が優勢に用いられる傾向にあることを明らかにし、ブルガリア語がタラクリア市の言語景観においてブルガリア系住民のアイデンティティと関わる象徴的な役割を果たしていることを解明した。また、少数言語による表記は話者自身による言語に対する態度にも肯定的な影響を持つことが知られるため、これが当地における言語保持にも重要な役割を果たしている可能性を指摘した。この研究成果は、ソフィア大学(ブルガリア)主催の国際会議において口頭発表を行い、その内容は当該会議の論集に投稿した。 借用は、言語保持に強く関与する言語接触の程度を言語面からはかるうえで重要な示唆をもたらすことに鑑み、ブラネシュティ村(ルーマニア)の言語データに基づくこれまでの借用に関する研究をさらに推し進め、接触言語であるルーマニア語からの動詞の借用語の詳細な分析も行った。その成果は第25回スラヴィスト協会(POLYSLAV)国際会議において口頭発表し、その内容を同協会の論集に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度に引き続き、コロナウィルス感染症により海外渡航による現地調査が実施できなかったため、研究を進めるうえで必要な資料が十分にそろわず、当初想定していた予定よりも遅れている。現地調査に代わる手段としてオンラインによる調査も試みており、一定程度の成果はあるものの、現地協力者側における技術的な問題や代理調査の実施にあたって困難も多く、現地で対面で実施する調査と比べて十分な成果を得ることが難しいのが現状である。一方、感染症拡大以前の現地調査で収集した資料の分析は順調に進んでいる。ただし、ルーマニアとモルドバのブルガリア系集落における言語保持に関する対照研究については現在分析を進めているが、成果の公表が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、ワクチン接種が進み欧州で制限が緩和している現状に鑑み、ルーマニアやモルドバでの現地調査を計画している。特にブカレストから北西に70kmほどに位置するバレニ・スルビ村(ルーマニア)は、言語シフトが進んだ他のルーマニア南部のブルガリア系集落(ブラネシュティ村など)と異なり、若い世代においても言語保持がなされている点で注目に値する。バレニ・スルビ村の状況はルーマニア南部におけるブルガリア語の言語保持に関する重要な事例となるため、夏から秋にかけての時期に現地調査を実施し、収集した資料に基づく分析と成果発表を年度末までに進める計画である。また、これと並行してモルドバでは前年度まで中心的に分析を進めたタラクリア市以外の、モルドバ南部の小規模な集落における言語状況の調査も可能であれば実施し、今後進めていく複数のブルガリア系集落における言語保持に関する対照分析に含める。今年度が最終年度であることを踏まえ、これまでの調査分析結果を総括し、マイノリティの言語保持の仕組みについて比較の観点から分析や考察を行い、年度末までにその成果を公表していくことを予定している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の世界的な拡大のため、予定していた現地調査が実施できなかったため。
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