2020 Fiscal Year Research-status Report
格の省略がもたらす意味解釈への効果に関する理論研究
Project/Area Number |
19K13188
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
杉村 美奈 立命館大学, 文学部, 准教授 (20707286)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 格 / 複雑述語形成 / 作用域 / 焦点化 / 主要部移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は格がもたらす意味解釈への影響および格の文法的役割を明らかにすることを目的とし、同時に格の付与に密接に関連する複雑述語形成の仕組みを捉え直すことも研究課題としている。 2020年度は、「いく」のような再構築動詞 (Miyagawa 1987) が可能接辞「られ」を伴い「いける」のような複雑述語を形成した際に、その補部である目的節に位置する「が」格目的語を認可する条件についての理論構築を行った。「いける」と目的節が隣接していなければ、目的節内部の「が」格は認可されず再構築現象が観察されないことは Miyagawa (1987) により指摘されており、「が」格認可にはこの隣接性の条件が通常は課される。しかし、宮本陽一氏(大阪大学)との共同研究において、Miyagawaの隣接性の効果が見られない時でも「が」格目的語が容認される場合があることを、「本が太郎は買いに東京行けるよ」のような文の文法性をもとに観察した。この言語事実を受け、「が」格名詞句は隣接性の効果が見られない場合には焦点化移動 (focus movement) によって認可されることを提案した。さらに、この「が」格認可には「られ」が焦点主要部 Foc(us) headに移動することによって形成される主要部複合体 (complex heads) によって認可される可能性を示した。 一方、小畑美貴氏(法政大学)と共同研究において、日本語の「いく」構文に一見類似するにも関わらず形態・統語的に異なる性質をもつ英語のgo + V (e.g. go get a book) に関し、両言語における動詞複合形成メカニズムついての現象記述を行い、理論構築に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、2019年度からの現象記述研究に基づき日本語の移動動詞を伴う複雑述語形成と格付与との関係性に関する理論構築を日本語と英語の比較研究を通して行う予定であった。研究実績の概要に示す通り、今年度の研究成果として、日本語の「が」格認可が焦点化に関与すること、その場合は格付与の隣接条件の効果が現れないことを明らかにしたため、日本語における言語事実の理論構築に関しては順調に遂行されていると言える。一方で、英語における移動動詞を伴う構文は日本語の「いく」構文とは異なる性質をもつ事実が明らかになったことにより、この現象を説明する理論構築がやや遅れている。また、2020年11月開催・第38回日本英語学会シンポジウムで予定されていた小畑美貴氏との共同研究発表が2021年度に延期になったことから、関連分野の研究者から十分なフィードバックを得られていない状況にあることも研究遂行の遅れの原因となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の研究において主要部移動による複雑述語形成が「が」格目的語の認可に関与する可能性を指摘したが、それが何故なのかといった説明には至っていないため、2021年度はこの点に関する理論の精密化を図る。この点に関し、宮本陽一氏との共同研究の成果を2021年5月に開催されるEnglish Linguistic Society of Japan 14th International Spring Forum 2021にて発表を予定しているため、学会で得られた他の研究者からのフィードバックをもとに2021年度は格付与および複雑述語形成の理論構築の精密化を行う予定である。同時に、今年度現象記述を行った移動動詞を伴う複雑述語形成と格付与との関連性に関する日英語比較研究についても、引き続き理論構築および精密化を図る予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度に予定していた研究発表および学会・研究会等への参加が新型コロナ感染拡大防止により延期になったことから、当初予定していた旅費が未使用となった。来年度も現段階では旅費への使用は難しい状況にあるため、残額は2021年度に購入する予定の図書の一部として使用する予定である。
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