2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K13197
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
稲垣 智恵 国際日本文化研究センター, 研究部, 機関研究員 (50715018)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 英語週刊 / 近現代中国語の変遷 / 翻訳 / 直訳 / 意訳 / 新興語法 / 欧化文法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、近代における中国語が英語翻訳との間でどのように変化したかについて、民国時代の英語学習雑誌『英語週刊』を用いて調査した。 「英語週刊」は民国時代における重要な英語学習雑誌の一つである。本雑誌にはTranslationという欄があり、そこでは一つの英語文章について、「意訳」と「直訳」の二種類の英語訳が用意されている。「意訳」と「直訳」を英語原文と比較することで、こうした英語からの翻訳文が「新興語法」とどのような類似点があるか、意訳と直訳でどのような違いがあるか検討した。調査項目は以下の通り。一)不定冠詞の翻訳。二)"之"を用いた連用表現について。三)人称代名詞の翻訳。結果、それぞれ以下のことがわかった。一)不定冠詞は名詞が具象名詞の場合、意訳直訳を問わず「"一"+【名詞】」で翻訳することが多い。直訳で見られ、意訳で見られない構造として「(有)+"一"+【数量詞】+【名詞】」の表現が見られる。この場合、多くが抽象名詞を修飾する構造である。二)前置詞ofは直訳では半数以上が“之”で翻訳されており、その中には中国語として不自然なものも含む。また、直訳に多く、意訳に少ない例として「【形容詞】+“之”+【名詞】」構造がある。これらの英語原文では"之"に相当する単語がなく、意訳では自発的に“之”を加えていると考えられる。三)意訳は人称代名詞を省略することが多く、直訳は「彼」「我」などを用い比較的忠実に訳している。こうした違いは三人称の翻訳において顕著である。今後は時制や副詞をどのように訳しているか調査を行いたい。 本研究は、2019年10月18日から21日、北京外語大学にて開かれた世界漢語教育史研究学会にて口頭発表をおこなった。 その他、「対外接触による近現代中国語の変遷」の一部研究を、国際日本文化研究センターの木曜セミナーにて口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
『英語週刊』を用いて、人称代名詞や連体修飾表現など、「これまで先行研究で新興語法だと言われている表現」を全体的に比較検討したため、2019年度の計画にあった「アスペクト表現」については研究がやや遅れた。また例文数が多いため、比較調査に時間がかかってしまった。ただし、次年度以降の研究対象であった「修飾構造」や「副詞用法」「受け身・使役表現」についても同時に調査しているため、全体としてはこの評価としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
報告者はこれまで、新興語法について日本語から中国語への影響を主に調査してきたが、当然ながら、英語が中国語に、英語が日本語に与えた影響も視野に入れなければならない。また、例えば「的」のように、英語を翻訳する際に必要となり、中国語を借りて翻訳した語が、当の中国では受容されなかった、というような用例もあるだろう。こうした多様な受容と変遷について、個別的な例だけではなく、同時代における同様の表現を広く収集し、研究を進めなければならないと考えている。 また、これまでは主に翻訳書や書記言語の変遷を見てきたが、これらは「知識人によって行われた言語改革」であり、その中には一般大衆に受け入れられた表現と、そうでない表現がある。20世紀初頭、例えば「的」のように知識人が中国語としての使用を検討したが、大衆に受け入れ難かった表現は、淘汰されていった。このように大衆に受け入れられる言語表現とそうでない表現という観点からも検討していく必要を感じている。
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Causes of Carryover |
研究成果発表や情報収集のため、旅費として使用する予定が中止になり、次年度使用額が生じた。次年度は、近世語学会での発表、国会図書館や中国国家図書館などでの資料調査を予定している。
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