2019 Fiscal Year Research-status Report
接頭辞付加の形態論上の位置づけに関する通時的・共時的研究
Project/Area Number |
19K13218
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
納谷 亮平 筑波大学, 人文社会系, 助教 (00837536)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 形容詞化 / 名詞修飾 / 接頭辞・接頭辞付加 / 関係形容詞 / 主要部性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、接頭辞付加が派生操作の一種であるか否かという点を明らかにしようとするものである。右側主要部の規則として知られるように、複雑語の主要部は(最も)右側の構成素であり、これが語全体の範疇を決めるとされる。しかし、接頭辞の中には、anti-やpro-のように名詞に付加して名詞修飾語を形成するものもある(例:anti-war movement, pro-popery Ministry)。このような例では、接頭辞が名詞を形容詞に変えているように見える。もし接頭辞が実際に範疇を変える要素であるとしたら、派生操作としての接頭辞付加を例外的に認める必要が出てくる。そこで、接頭辞付加は真に派生操作であると言えるのかという問いが生じる。これが、本課題が取り組む中核的問いのひとつである。
この問いに関連して、本年度は、(1)複雑語を形成する要素の性質と主要部性、(2)日英語の(名詞由来)形容詞および名詞修飾要素の性質とその形成手段に関する考察をすすめ、接頭辞付き名詞修飾要素の性質および形容詞化について明らかにする土台を築くことができた。
(1)については、非生産的な接辞が主要部となって形成された語が持つ性質について観察と分析を行った。加えて、補部の選択という点において右側要素が主要部らしさを失っている複雑語に関して、統語的要因と意味的要因がどのように働いているのかを明らかにした。(2)については、まず、一見特異に見える日本語の形容詞の振る舞いについて、意味論的説明を与えた。また、名詞由来修飾語は名詞前位用法が基本であるという先行研究の観察が、日英語対照の観点からも支持されることを示した。さらに、英語の関係形容詞の分析から、名詞由来の修飾語を形成する接辞の由来(つまり、英語の本来的要素であるか、借用された要素であるか)によって、それが参入可能な形態論上の操作が異なる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度中に所属部局の変更があり、当初想定していた研究時間を割くことができなかった。 また、本研究は接頭辞付加による形容詞化に焦点を当てたものであるが、研究遂行上、(名詞由来)形容詞自体の性質や複雑語の主要部性をめぐる問題にまず取り組む必要があることが分かり、本年度はこれらに着手することとなった。その結果、接頭辞付加の性質に関する調査については、当初の計画通りに進めることができなかった。 以上の点から、本研究課題を遂行する上で重要な進展はあるものの、当初の計画からはやや遅れていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
形容詞の性質および名詞修飾表現の形成手段という点について、これまで明らかになったことを踏まえて、より詳細に接頭辞付き形容詞の分析を行っていく。具体的には、これまで収集してきた接頭辞付き形容詞のデータを、新たに得られた知見から見直して再整理するとともに、新たなデータの収集と整理を行っていく。これらのデータを分析することにより、接頭辞が真に範疇変更に関わっているか否かを明らかにしていく。また、英語の通時的変化が名詞修飾語の形態にどのように影響を与えたのか調査を行っていく。得られた成果は、研究会や学会などで順次発表し、フィートバックを得ることによって研究を発展させていく。 平行して、引き続き名詞修飾要素の形態論を明らかにしていくとともに、これまでの研究で明らかになってきた点を論文としてまとめ、公表することを目指す。
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Causes of Carryover |
年度末に購入を検討していた書籍の出版が遅れ、購入できなかったため、次年度使用額が生じた。これは、次年度、速やかに物品費として使用する予定である。
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