2019 Fiscal Year Research-status Report
「親子をつなぐことば」を育む母語・継承語学習―教科学習支援と二言語創作絵本-
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19K13245
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
滑川 恵理子 立命館大学, 国際関係学部, 非常勤講師 (70813963)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 外国につながる子ども / 母語 / 継承語 / 教科学習 / 多言語絵本 / 外国につながる親子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、外国につながる親子が主体的に実践する母語学習および継承語学習の事例を対象に、「親子をつなぐことば」を育成することの意義と課題を考察することである。日本語のみをベースとする学習では成し得ない、参加者の心理の変化や参加者間の関係性の変化を捉え、その意義を発信することを目指す。また、完成した多言語創作絵本を教材として公開することによって、母語・継承語学習への関心を高めると同時に、他地域との交流を進展させる。 研究課題1の「母語学習」については、1年目の2019年度は、研究発表と投稿論文の準備を行った。研究代表者が以前実践した、子どもの母親が母語話者支援者として参加する母語と日本語の両言語を介した教科学習支援で得られたデータを見渡し、テーマを絞った。 研究課題2の「継承語学習」については、「親子による多言語絵本作り」の実践とデータ採取に主に取り組んだ。近畿地方にある外国につながる親子のための学習支援教室を拠点に、第一作目として、教室に通う中国出身の母親を主人公とする絵本を製作し、11月に完成した。二作目と三作目の製作も進行中である。採取したデータからは、絵本作りを通じて、対象となった外国につながる親子の心理的変化(母親の視野の広がり、離れて暮らしている母方の親族とのつながりの深まりなど)と、日本人支援者(学習支援教室のボランティア)を含む参加者の間でも意識や関係性の変化(日本語ではないもう一つのことばに対する気づき、言語と文化に関する対等性の芽生えなど)が観察された。実践から得られたこのような結果をもとに、研究発表を2回行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究課題1の「母語学習(母語と日本語の両言語を介した教科学習支援)」の分析については、研究発表と投稿論文の準備を進めている。中国出身の二人の小学生を対象とする母語と日本語の両言語を介した教科学習支援の中で、母語話者支援者として参加した母親が、母親ならではの役割を果たしているデータを焦点化し、新たな研究的関心の下、先行研究と研究課題の絞り込みを行っている。 研究課題2の「継承語学習(親子による多言語絵本作り)」については、第一作に続き、二作目、三作目の製作に着手している。一作目は中国出身の母親の子どもの頃のエピソードから発案された絵本であったが、二作目は、中国の他、メキシコとシリア出身の親たちや日本人支援者のエピソードをもとに、文化的により多様な親子の姿を描いた漫画風の絵本で、印刷段階へと進みつつある。テーマは親であれば誰もが抱える子育ての悩みや、時代や文化によってさまざまな親子の関係性である。多様な親子の有り様が活き活きと語られており、教材として公開されたときの反響が期待される。第三作目は、メキシコ出身の母親のエピソードをとり上げる予定である。聞き取りを3回行い、プロットが作成されたところである。 1年目の進捗状況がやや遅れているのは、研究課題2について、当初の予定より進まず、完成が一作品に留まったことによる。理由の一つは、研究協力者の絵本作家の都合により本格的に取り組んだのが8月以降となったためである。また、研究代表者にとって絵本作りは初めてのことであり、絵本作家や印刷業者とのやり取りに予想より時間を要した。さらに研究代表者は春休みを利用して二作目三作目の製作を進める予定であったが、新型コロナウィルス拡大防止のために協力者との面会やミーティングを自粛せざるを得なかった。こうした事情や社会状況のため、多言語教材としての絵本の完成が予定通りに達成できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題1の「母語学習(母語と日本語の両言語を介した教科学習支援)」について、2020年度中に研究発表1回と投稿論文1本を予定している。特に研究発表については、学会や研究会の中止が相次ぐ中、発表の場が限られてくると予想されるが、Zoom会議などの遠隔参加による研究発表を実施する学会なども現れており、機会を逃さぬよう情報収集に務める。 研究課題2の「継承語学習(二言語創作絵本作り)」については、まず昨年11月に完成した一作目を多言語教材として電子絵本化して無料公開する予定である。多言語化としては、日本語と中国語の語り音声付とする他、スペイン語、ポルトガル語、フィリピン語、アラビア語などに翻訳し、画像に字幕として付ける予定である。すでにウェブデザイナーを選定し、基本デザインが固まりつつある。本研究ではオリジナルの絵本製作に取り組むからこそ、著作権に縛られることなく、多言語へと自由に翻訳し、教材として提供できる。その強みを生かしたい。並行して現在製作中の二作目三作目を2020年度中に完成させるとともに、この二作品も順次電子絵本化を進める。そして、これらの成果を学会等で発表する。 いずれの研究活動も、新型コロナウィルス拡大防止のために行動を自粛しつつ、メールやテレビ電話などの手段を最大限に活用して、出来る範囲内で進めることとする。
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Causes of Carryover |
絵本作家の都合により、完成した創作絵本が1作品に留まったため、予定より支出額が少なくなった。2020年4月現在、絵本作家は2作目3作目の製作に精力的に取り組んでいる。また、完成した一作目を教材として電子絵本化することについても、すでにウェブ業者が確定し、進行しつつある。このように、2020年度は絵本製作費および教材公開のための費用が予定通り支出される予定である。
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Research Products
(2 results)