2020 Fiscal Year Research-status Report
「親子をつなぐことば」を育む母語・継承語学習―教科学習支援と二言語創作絵本-
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19K13245
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
滑川 恵理子 京都女子大学, 国際交流センター, 助教 (70813963)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 外国につながる親子 / 外国にルーツをもつ子ども / 外国人の子ども / 母語 / 継承語 / 多言語教材 / アイデンティティ・テキスト / デジタル(電子)絵本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、外国につながる親子が主体的に実践する母語学習および継承語学習の事例を対象に「親子をつなぐことば」を育成することの意義と課題を考察することである。日本語のみをベースとする学習では成し得ない、参加者の意識変容や参加者間の関係性のあり方を捉え、その意義を発信することを目指す。また、継承語学習として製作する創作絵本をデジタル化し、多言語教材としてウェブサイト上で公開することによって、母語・継承語学習への関心を高めるとともに国内外のグループ等との交流を図る。 研究課題1の「母語学習」については、2年目の2020年度は8月に研究発表(ポスター発表:MHB(母語・継承語・バイリンガル教育)学会、オンライン)を行い、3月に論文投稿(査読あり)を実行した。 研究課題2の「継承語学習」については、「親子による多言語創作絵本作り」を精力的に進めた。昨年度完成した1作目(中国語日本語版)に続き、2作目(3パターン:中国語日本語版、スペイン語日本語版、アラビア語日本語版)が6月、8月、12月に、3作目(日本語スペイン語版)が1月にそれぞれ完成した。現在4作目(アラビア語日本語版)を製作中である。中国出身の母親の子ども時代のエピソードを題材とした1作目に続き、2作目は思春期と反抗期をテーマに、研究拠点としている地域の教室に通う外国につながる親たちと日本人支援者から広くエピソードを集めて製作した。3作目はメキシコ出身の母親の子どもの頃のエピソードを、4作目はシリア出身の父親が日本への留学を決めたときの葛藤を描く。それぞれ印刷版絵本の完成後はデジタル版の製作に進んだ。 研究課題2「継承語学習」の発表としては、新型コロナウィルス感染拡大により学会や研究会の中止が相次いだが、海外(CAJLE:カナダ日本語教育振興会)の研究大会(オンライン)でラウンドテーブル形式の発表を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
感染症の終息は未だ見えないが、関係者に深刻な被害や影響を受けた者はなかった。学会等の中止も続いたが、オンライン開催の機会を捉え、研究発表を2回行った。2020年度の研究活動は概ね順調に進展したと言える。 まず、研究課題1の母語学習の分析については、研究発表(ポスター発表)1回と論文投稿1本を実行した。研究発表では、外国につながる子どもの学習上の困難を解消するために母語による教科学習で活用した図書などの視覚的素材を提示した。視覚素材は単に困難を解消するためのものではなく、参加者が新たな世界を発見し、視野を広げる窓口となったことを明らかにし、参加者から共感を得た。投稿論文では、中国語母語の小学生二人を対象とする母語を介した教科学習支援(子どもの母親が母語話者支援者を担う)で得られたデータを質的に分析した。 研究課題2の「継承語学習(親子による多言語創作絵本作り)」も概ね順調に進展した。研究発表(ラウンドテーブル形式)では1作目と2作目を紹介し、セミプロ作家(研究協力者、拠点としている地域の教室のボランティア支援者の一人)による絵本のレベルの高さ、オリジナル作品であるゆえに著作権の問題が発生しないことなどについて参加者の注目が集まった。 後半は絵本のデジタル化を進めた。専門業者に発注したBGMつきの動画で、日本語ともう一つの言語で交互に語られる。スペイン語とアラビア語の音声は絵本の主人公本人(データ提供者)によるものであり、情感と説得力にあふれている。1作目(約11分)と2作目の日本語中国語版(約16分)のデジタル絵本が完成し、関係者内で共有した。インターネットを通じて国内外に広く発信できる、特に絵本の主人公である外国につながる親子が母国の親族や友人と絵本を共有できるなど、紙媒体の教材では得られない反響があった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、研究課題1の母語学習の分析については、投稿論文の採択と掲載に向けて注力する。同時に、この研究成果の発表の場を模索する。 次に、研究課題2の継承語学習の分析については、引き続き多言語創作絵本作りを進める。現在進行中の4作目を完成させ、5作目(外国につながる家族の出産にまつわるエピソード)に着手する予定である。 そして今年度の中心的な取り組みは絵本のデジタル化とウェブサイトでの公開である。ウェブサイトのタイトルは「外国につながる親子による多言語創作絵本―わたしたちが主人公の物語―(仮題)」とした。2021年8月の学会発表を機に一般公開することを目指し、2作目、3作目のデジタル化を早急に進める。デジタル絵本の製作を依頼した業者にウェブサイト作成も発注する。ウェブサイトには視聴者からのコメント投稿欄を設け、国内外のこの分野に関心をもつ人々との交流を深めるとともに、今後の研究活動に向けたヒントを得る。 ウェブサイト公開は「多言語創作絵本ワークショップ」の開催への足がかりである。この活動に関心をもつグループなどに働きかけ、ワークショップの共催を交渉する。ワークショップでは公開されている多言語創作絵本を例に、参加者に母語(あるいは継承語)と日本語の両言語を使ってアルバムのような作品を作成してもらう。親から子への思いやメッセージを写真や絵とともに綴るイメージである。作品は多言語創作絵本と並べてウェブサイト上で公開し、さらに交流の輪を広げるという趣向である。同時にワークショップ参加者のエピソードの中から新たな多言語創作絵本のテーマを発掘する。 感染拡大防止の観点から、2020年度は人と接触することが躊躇される状態が続いた。2021年度は、感染状況に留意しつつ、2020年度に断片的に得られたデータを確証するとともに、新たにデータを聴取して分析する。年度内に2回以上発表の場を得ることを目指す。
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Causes of Carryover |
全世界的な新型コロナウィルス感染拡大により、国内外の研究発表の場がオンライン開催によるものとなり、旅費が発生しなかったためである。特に2020年度はカナダに赴いてカナダ日本語教育振興会での研究発表を予定していたが、オンライン開催となったため、旅費・参加費が発生しなかった。
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Remarks |
二言語創作絵本のデジタル版で、完成した2作品のURLである。
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Research Products
(5 results)