2019 Fiscal Year Research-status Report
第二次大戦下ドイツ系亡命者の対独ラジオプロパガンダ参加経験とその影響
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19K13317
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 健雄 京都大学, 高等教育研究開発推進センター, 特定研究員 (80792374)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ドイツ系亡命者 / 反ナチス抵抗運動 / ラジオプロパガンダ / 心理戦 / 戦後ドイツ / ISK / Neu Beginnen |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、対独ラジオプロパガンダに参加したドイツ語圏からの亡命者(以下、「ドイツ系亡命者」)を手掛かりに、1930年代後半から1949年にかけての彼らの活動と思想の中に、ラジオプロパガンダの経験を位置付けることで、同時期の言論空間の形成過程の一端を解明しようとするものである。具体的な検討対象は、ISK(国際社会主義闘争同盟)のフリッツ・エーバーハルト、Neu Beginnen(新規まき直し)のリヒャルト・レーヴェンタールら、戦中、ラジオプロパガンダに参加するとともに、戦後西ドイツのラジオ放送並びにジャーナリズムの復興に関わった複数の人物である。 初年度である2019年度は、まず(1)かつてコンラート・プッターによってまとめられた、イギリスの対独ラジオプロパガンダに参加したドイツ系亡命者のリストをもとに、BBCで活動した123名の亡命者の経歴、職業、ラジオ放送内の役割を数量的に整理した。その結果、政党関係者のうち実に4人に1人がISK、Neu Beginnenの関係者であることを確認、両組織の影響力の大きさが確認できた。 その上で(2)1920/30年代におけるISKとNeu Beginnenの動向を調査・検討した。その結果、① ISKが、社会主義を標榜したのは第一次世界大戦後であったこと、その際依拠した創始者レオナルト・ネルゾンの思想に、のちにISKがSPD(ドイツ社会民主党)の結集・再建にあたり中心的役割を果たし得た思想的中核があったことを確認した。さらに、② ISKとNeu Beginnenの両者を、小規模幹部政党としての特性、そして史的唯物論の否定という立場から比較、検討することで、両者の中間政党としての役割ならびにプロパガンダとの親和性を確認した。これらをそれぞれ、一つの論文と一つの共著内論考としてまとめ、前者は今年度に公開、後者を次年度に公開する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の通り、2019年度は、1本の論文を公開するとともに、2020年度刊行予定の共著内論考1章分を仕上げることができた。その結果、ISKとNeu Beginnenの構成員らの対独プロパガンダ参加以前の道程を確認するとともに、社会主義者の統一戦線構築に向けた思想的変化を整理することができた。合わせて、BBC内でISK、Neu Beginnenの構成員が占めた立ち位置を、数量として確認できたことは大きな成果だった。 コロナ危機の影響で、年度末に予定していた史料調査が実施できなかったこと、同じく年度末に予定されていた学会報告2件が延期となったことは痛手であったが、全体としては一応の成果を挙げられたと判断し、この評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後コロナ危機の影響がどの程度続くか見通せないなかであるが、2020年度の前半はまずできることとして、これまでに蒐集したISK、Neu Beginnenによる定期刊行物、出版物の読解、分析を進める。これによって、彼らのナチス政権に対する視点とともに、社会主義者としての立場の変化、より具体的には革命路線からの離脱と親民主主義的態度の獲得過程を明らかとする。 また、今年度の半ばから後半にかけて、在外史料調査が可能な状況となれば、(A)BBCドイツ語放送及び「欧州革命放送」に関する史料並びに(B)イギリス労働党関連文書、同国政治戦争執行部(PWE)関連文書を蒐集、分析したいと考えている。これらの史料は、イギリス公文書館並びにBBC文書史料センターに収蔵されており、計2週間ほどの史料調査を想定している。この作業によって、連合国の対独ラジオプロパガンダの中で亡命者がどのような位置づけにあったのかを確認できると考えている。 ただし、状況次第では変更を加えることも止むを得ず、その場合は、かつてドイツ・ラジオ文書館で蒐集した関連資史料の読解、分析を実施することを想定している。
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Causes of Carryover |
概ね請求金額通りの執行となったが、年度中の超過使用を防ぐために心もち余裕をもって執行した結果、2000円弱の繰越金が生じた。2020年度の書籍購入費にあてたい。
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Research Products
(2 results)