2021 Fiscal Year Research-status Report
第二次大戦下ドイツ系亡命者の対独ラジオプロパガンダ参加経験とその影響
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19K13317
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 健雄 京都大学, 高等教育研究開発推進センター, 特定研究員 (80792374)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ドイツ系亡命者 / 反ナチス抵抗運動 / ラジオプロパガンダ / 心理戦 / 小規模社会主義組織 / ISK / Neu Beginnen / レオナルト・ネルゾン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、対独ラジオプロパガンダに参加したドイツ語圏からの亡命者(以下、「ドイツ系亡命者」)を手掛かりに、1930年代後半から1949年にかけての彼らの活動と思想の中に、ラジオプロパガンダの経験を位置付けることで、同時期の言論空間の形成過程の一端を解明しようとするものである。ISK(国際社会主義闘争同盟)とNeu Beginnen(新規まき直し)という小規模社会主義組織の構成員を主たる検討対象とする。 21年度は、前年度から引き続き、ISK、Neu Beginnenの亡命以前の動向を追った。これは、彼らがナチズム体制に代わるものとして、どのような国家体制を理想としたのかという点を考察する上で、両組織が唱えた社会主義のあり方を把握することの重要性ゆえである。その結果、(1)ISKとNeu Beginnenを、同時期の他の社会主義組織から分かつものとして、伝統的な史的唯物論からの逸脱と「主体性」への着目という特徴があったことを明らかにするとともに、(2)ISKの創始者レオナルト・ネルゾンが、自由主義から社会主義にその立場を移行させた際、その背景には少なくない左派自由主義者の社会主義への接近があり、その文脈のもと、ネルゾンの社会主義者への転換を理解すべきという点を明らかとした。 (1)の観点は、同時代におけるG・ルカーチやオーストロ・マルキシズムの論者による議論と対照させて検討すべきものであり、現在その検討中である。また(2)は、従来、同時代的文脈から切り離されて考察されがちであったネルゾンの思想を、同時代の思想的変動のなかで考察することを求めるものであり、新たなネルゾン=ISK理解に繋がるものである。 (1)についてはその成果の一部を2021年5月刊行の共編著内論文で公開するとともに、1回の学会発表で紹介した。(2)については、2022年度刊行の査読付雑誌に投稿すべく準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、1冊の共編著を公開し、また1回の研究報告を行なった。それとともに、2編の論文の骨格を完成させることができた。その過程で、20年代のドイツ社会主義諸組織の中でのISKとNeu Beginnenの特徴として、両者が革命主体の「主体性」を強調し、伝統的な史的唯物論からの脱却を試みていたことを明らかにした。また、ISKの創始者レオナルト・ネルゾンの自由主義思想から、社会主義への移行過程を詳らかにしつつある。これらは、本研究課題にとって重要な成果といえる。 その一方で、新型コロナウイルス感染症が収束しないなか、国外での史料調査が実施できておらず、その結果、当初企図した1940年代のドイツ系亡命者の経験の分析が十分にできていない。このような状況に鑑みて、この評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は21年度に引き続き、これまでに蒐集したISK、Neu Beginnenによる定期刊行物、出版物の読解、分析を進める。これによって、彼らのナチス政権に対する視点とともに、社会主義者としての立場の変化、より具体的には革命路線からの離脱と親民主主義的態度の獲得過程を明らかとする。 それとともに同年度は、ドイツでの史料蒐集を夏に実施すべく準備を進める。この調査結果を踏まえて、本研究が対象とする時期のドイツ系亡命者の活動と思想を、ラジオプロパガンダという観点から分析していく予定である。 ただし、新型コロナウイルス感染症の感染状況によっては、国外での史料調査が困難という状況も予想される。その場合は、不本意ながら、研究期間の延長という形でもって対応したいと考えている。
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Causes of Carryover |
概ね請求金額通りの執行となったが、年度中の超過使用を防ぐために心もち余裕をもって執行した結果、数千円の繰越金が生じた。22年度に有効活用したい。
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Research Products
(2 results)