2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K13329
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石津 裕之 東京大学, 史料編纂所, 助教 (50812674)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 門跡統制 / 朝廷 / 親王家 / 近世 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、朝廷中枢が行っていた門跡(天皇家・親王家の子弟が入寺する格式の高い寺院、もしくはその住職=門主のこと)に対する統制の具体像を解明することを目的としている。前年度は、門跡と朝廷中枢の間を取り次いでいた役人である肝煎・御世話人に関して分析を行ったが、今年度は、門主の実父・養父である天皇・親王が門跡の運営に関与していたとの先行研究の指摘を踏まえ、特に親王に対象を絞りつつ、①親王が門跡の運営にいかに関与していたのかを先行研究に比してより具体的に解明しつつ、②親王による関与と肝煎・御世話人による関与の関係性について、検討を行った。 ①については、前年度に撮影できていた京都大学所蔵の「一乗院御用日記」および東京大学史料編纂所の架蔵する同上日記の写真帳などを用い、分析を行った。その結果、門跡内外の諸案件の決裁に先行して、門跡寺院組織構成員が親王家当主に伺いを立てていた事実を明らかにできた。②については、宮内庁書陵部宮内公文書館所蔵の「山階宮実録」などを用い、分析を行った。その結果、親王家当主に伺いを立てる案件の殆どは肝煎・御世話人にも相談がなされており、肝煎・御世話人は親王家当主の意向に関心を示していたことなどが判明した。 住職とその実家の関係は、寺院史研究一般でも論点となっており、①の成果はそうした研究と接続しうる可能性を持つ。②の成果は、朝廷中枢と門跡の二者の間のみで統制が完結していた訳ではないことを示しており、先行研究では意識されてこなかったものの、朝廷中枢による門跡統制を立体的に把握する上で門主の実家の意向を考慮することの必要性を示せたと考える。 以上の成果は、論文化に向けて準備を進めている。また、関係する成果として「書評 村上紀夫著『近世京都寺社の文化史』」を『日本史研究』698号に掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、京都大学を始めとする各所蔵機関で史料調査を行う予定であったが、新型コロナウィルス感染症の流行により、遠方への史料調査は自粛せざるを得なかった。幸いなことに、研究代表者の所属機関(東京大学史料編纂所)に部分的にではあるが関係する史料の写真帳が架蔵されていたため、これに前年度までに撮影した史料を組み合わせることで何とか分析を行うことはできたが、当初予定していた量の史料の分析はできなかった。一方、前述のように一定の分析結果も得られたことは確かである。以上の点から、本年度の進捗状況は「やや遅れている」であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度・本年度の分析対象が宮門跡(門主を天皇家・親王家出身者が務める門跡)であったのに対し、次年度は摂家門跡(門主を摂家出身者が務める門跡)に分析対象を広げ、摂家門跡における肝煎・御世話人の実態や門主の実父=摂家当主による門跡運営への関与について分析を行う。その際には、本年度までの分析結果を援用し、宮門跡との比較検討も併せて実施する。また、新型コロナウィルス感染症の流行状況次第ではあるが、可能な範囲で各地の所蔵機関に出張して史料調査を行う予定である。以上の作業による成果は、本年度と同様、論文化を目指す。
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Causes of Carryover |
今年度は、新型コロナウィルス感染症の流行という状況を受け、東京から遠方へ史料調査に赴くことは控えたため、旅費の予算が余った。次年度へ繰り越しすることも検討したが、次年度の感染症をめぐる状況(特に研究環境への影響)も不透明であるため、繰り越しはせず、余った予算は分析に用いる史料集や参考文献の購入に充てた。それでも残金が発生したが、少額であるため、次年度に史料集や参考文献の購入に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)