2021 Fiscal Year Research-status Report
20世紀初頭における歴史意識の転換と研究者ネットワーク―日本歴史地理学会を中心に
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19K13347
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
廣木 尚 早稲田大学, 大学史資料センター, 講師(任期付) (00756356)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 史学史 / 日本歴史地理学会 / 歴史地理学 / 吉田東伍 / 『大日本地名辞書』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1899年設立の日本歴史地理研究会(後の日本歴史地理学会)を主な対象に、20世紀初頭に形成された全国的な歴史研究者ネットワークの実態と、その活動がアカデミズム史学と地域の歴史意識の双方に与えた影響を解明することを目的としている。 三年目にあたる2021年度は、まず、前年度に引き続き、本研究の基幹史料である日本歴史地理学会の機関誌『歴史地理』を用いた基礎的データの整理・分析を行い、同誌の彙報欄について、第一巻第一号(1899年)から第八十二巻第六号(1943年12月)までの目録を作成した。これにより創立から戦中期にいたる同会、および、同会と関係をもった各地の歴史学会・歴史研究者の動向を通時的に把握することが可能となった。 同会に対する昨年度の研究成果に、この目録の情報を加味した上で、次に、創立から1910年代後半まで同会の中核的なメンバーであった吉田東伍の活動を対象に実証的研究を行い、その成果を論文「日本歴史地理学会と吉田東伍」下(『早稲田大学史記要』53、2022)にまとめた。吉田の活動を通じて、現実の政策や災害史への関心など、実用志向に根差した同会の独自性が浮かび上がった。また、吉田の主要業績である『大日本地名辞書』について、同書の記述の成否を検討・修正することが『歴史地理』に寄稿される論稿の重要テーマとなり、その議論が、同会を媒介とする歴史研究者ネットワークの駆動因となったことも明らかとなった。吉田も『大日本地名辞書』の執筆にあたり、この歴史研究者ネットワークから史料収集等の便宜を得ており、同会の活動が、吉田の研究にもフィードバックされていたことも判明した。 これらの検討を通じて、吉田の活動を軸に、本研究の目的である全国的な歴史研究者ネットワークの実態、及び、アカデミズム史学と地域の歴史意識に対する影響の一旦を解明することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、①全国的な歴史研究者ネットワークの総体的把握、②地域の側から捉えた事例研究、③アカデミズム史学への影響の3課題に分節化できるが、この内、①③については、概ね達成している。しかし、前年度から引き続くコロナ禍のため、当初の計画にあった出張調査が実施できず、②の課題が着手できない状況にある。そのため、研究期間を1年延長し、2022年度に出張調査を伴う②の作業を実施することとした。2022年度にこの作業を行えれば、当初の目標を達成することができるものと見込んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
熊本市・金沢市での出張調査を行い、地域の側から捉えた事例研究に着手する。この調査結果にこれまでの成果を総合し、本研究の目的を達成したい。また、前年度までの調査を通じて、吉田東伍についての検討をさらに深める必要性も感じている。可能であれば、吉田東伍記念館(新潟県阿賀野市)での調査も実施したい。 なお、コロナ禍が長期化し、出張調査が実施できない場合は、その分のエフォートを日本歴史地理学会の主要会員である喜田貞吉に関する調査に充当する。これによって上記の成果を代替することは困難だが、豊富な資料が存在する喜田について調査を深めることで、間接的にこの課題に迫ることができるものと考えている。
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Causes of Carryover |
当初の計画にありながら、コロナ禍のために繰り越した出張調査の費用に充当する。出張先は熊本市・金沢市である。また状況に応じて新潟県阿賀野市での調査も実施したい。
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Research Products
(2 results)