2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K13351
|
Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
吉永 隆記 京都精華大学, 人文学部, 講師 (20778964)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 環境復原 / 荘園 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、荘園の故地に残る地名や地形、水利や祭祀形態などから、中世荘園の景観を復原しようとする取り組みの中に位置づけられる。本研究では、特に備中国と丹波国の荘園を事例として検討している。 まず、備中国については、荘園研究で著名な新見庄(岡山県新見市)を素材として検討を進め、これまでの研究史でも注目されてきた産鉄の痕跡(地名、遺構など)をうかがった。その過程で、新見庄と同じく高梁川流域に位置する荘園故地には、産鉄に関する地名等が多く分布することが明らかとなった。このうち、相国寺領備中国大井庄(岡山市北区)に注目すると、産鉄のみならず、その内部の領主屋敷やそれに付随する堀などの痕跡を地名から確認することができたので、同地域の景観復原を進めた。この成果は、これまで文献史料で全く内実が分からなかった地域の環境復原を試みた事例として、発表予定である。 また、丹波国については、京都の祇園社(八坂神社)領であった波々伯部保を素材として検討を進めている。2020~21年度については、主に同保を中心に研究を進めた。波々伯部保については、「八坂神社文書」をはじめとする荘園領主側に残された史料により、少なからずその経営や在地の様相をうかがうことが可能である。しかしながら、こうした文献史料の情報を生かし、現地の地名や祭祀形態との比較検討がなされたことはあまりなかった。そこで、先述の大井庄などと同様に、地籍図を主に活用しつつ、地名情報などの収集を進め、波々伯部保の環境復原を進めた。現在までに、中世荘園に関する地名をおおよそ確認・整理しており、今後は現地調査にて地点の特定や、さらなる地名・屋号情報の収集を予定している。また、同地域の祭祀はにも注目した中世荘園の範囲を復原する作業も行っている。 上記の2つの事例の成果は、2022年度末に学術論文の形で発表する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は現在までに2/3の計画を消化している状況である。すなわち、備中国と丹波国の荘園を検討素材する計画のうち、既に備中国については、おおよその調査研究を終えることができた。また、丹波国については、現在調査進行中であり、2022年夏に断続的な現地調査を計画している。 本来であれば、丹波国での現地調査は2020年度に実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の流行により、大幅な研究計画の変更を余儀なくされた。さらに2021年度についても、9月に計画していた現地調査は、全国的な緊急事態宣言・蔓延防止等重点措置の影響を受け、自治体をまたいだ現地調査が困難な状況となった。また、地名や祭祀について聞き取り調査を予定していた地域住民と相談し、感染症対策の観点より、調査活動の延期を決断せざるをえなかった。そのため、2021年度については長期の現地調査活動を行うことができず、予算の執行も限定的であった。 なお、2022年度については、感染症対策を期したうえで、9月に延期していた現地調査を実施する計画で調整を進めている。 一方、科研費での研究活動を一般にも広く知ってもらうことを目的に、所属する京都精華大学の教員と共に、「科研費報告 最新の研究に触れる」と題した展示・講座を実施することができた(2022年2月16~22日、京都精華大学情報館)。同展示・講座では、本研究の成果や意義について、パネル展示や講座の形で学生や一般の方に還元できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は、日頃の文献調査と、断続的な現地調査によって進行させている。これまで、新型コロナウイルス感染症による現地調査の実施延期によって、当初の計画よりも大幅に研究の遂行が遅れることとなった。こうした経験を生かし、今後の現地調査については感染症の流行が低調な時期を見極めつつ、短期の調査を複数回実施する計画を練ることとした。また、聞き取り調査が困難な場合には、オンライン会議形式による聞き取りを実施する準備も進めている。これは、聞き取り対象者が高齢であること、技術的に不慣れな方が現地に多いことで、これまで実施を見送ってきたが、現地側の協力者にオンライン会議の環境を整えてもらう方法により、解決することができた。万一、今後も新型コロナウイルス感染症の影響で現地調査が困難となった場合、聞き取り調査はオンライン会議形式にて実施する。 また、現地調査については、どうしても実施が不可能な場合のみ、文献調査や地籍図の情報を整理した情報をもとに考察を行い、一定の成果として学術論文にまとめることとする。当初の計画と比較すると、現地調査の成果を盛り込めない点で質が落ちることと予想されるが、今後の課題として提示することで、本研究に一区切りつけることとしたい。
|
Causes of Carryover |
2021年度については、その主な使途目的であった現地調査を見送ったため、ほとんど研究費の使用がなかった。また、文献調査に必要な書籍類も既に過年度にそろえていたため、そのための使用もなかった。 上記の理由により、計画段階で見込んでいた支出(主に旅費)がなかったため、次年度使用額が生じた。 また、次年度使用額は、2022年9月に計画している断続的な現地調査費が主な使用目的となる。そして、調査費で余りが生じた際には、成果公表に向けての準備として、印刷費等での使用を計画している。
|