2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K13362
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐野 克司 筑波大学, 人文社会系, 研究員 (00836067)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アッシリア王碑文 / プロパガンダ |
Outline of Annual Research Achievements |
歴代のアッシリア王は自らの業績を詳細に記録した「王碑文」を数多く作成した。「この王碑文のオーディエンスに一般の住民が含まれるのか」という問題にかんしては、そのことを直接的に示す証拠が存在しないため、「一部のエリートや外国からの使者にのみ読み聞かせられた」とする説が支配的であった。しかしながら、代表者が、これまで先行研究において注目されてこなかった、帝国の中心的な諸都市においてアッシリア王が自らの力を誇示するために行ったと考えられる政治的なパフォーマンスに焦点を当て、関連する事例を網羅的に収集・分析した結果、王碑文の内容は広く一般の住民にも定期的に伝えられていた蓋然性が高いことが明らかになった。 「帝国支配を確固たるものにするために、アッシリアは強制移住させた異民族をアッシリア人に同化させた」という広く受け入れられている言説がある。かつて代表者は、「捕囚民をアッシリア人に同化させ、同質的な民族を作り出すというのはあまりにも現代的な考えである」とこの言説を批判し、「アッシリアは同化政策ではなく、民族間の異質性に基づいた支配政策を採用し、王に対する忠誠心を競い合わせていた」という考えを提示した。当然のことながら、単に一つの都市の中に民族ごとのコミュニティを形成させただけではこの支配が機能するとは限らず、彼らがアッシリア人という共通の敵に対して団結し、反乱を起こす可能性がある。それゆえ、「王の存在」と「王の功績」を、帝国内における捕囚民を含む一般の住民に広く知らしめることこそが、彼らに相互の不信感や嫌悪感を生じさせ、王に対する忠誠心を競い合わせるために必要な手段であったと考えられる。王碑文のオーディエンスにかんする調査を通して自説を補強することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
歴代のアッシリア王が帝国内の中心的な諸都市(アッシュル、アルバイル、ニネヴェ)において実施した政治的パフォーマンス(捕らえた敵王の処刑、見せしめ、動物園の設立)に光を当てた調査を行うことによって、王碑文のオーディエンスにかんする新たな仮説を提唱することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、アッシリア王碑文において「王の強さ」を表象するために用いられた技法のひとつである「数の操作」に焦点を当てた調査を行う。いくつかの具体的な事例から、アッシリア王碑文を作成した書記たちが、貢物や略奪品の数、あるいは捕虜や捕囚民の数が多ければ多いほど、「王の強さ」を反映すると考えたことが理解される。王碑文に記されたすべての数に誇張が含まれていると考えることはできないが、専門家でさえ見破れないほど巧みな方法で数が操作されている可能性もあるため、同じ出来事について言及している複数の碑文を検証し、どのような場合において、そしてどのような種類の碑文においてこのようなプロパガンダが含まれるのかを明らかにする。また奪った略奪品や捕虜などの数が少なかった場合には、書記たちが「王の強さ」を損なうことを恐れて意図的に碑文に数字を記さなかった可能性があるため、関連するデータを収集し、セトルメントパターンなどの考古学的データを活用することによって、この仮説の妥当性を検証する。
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Research Products
(3 results)