2020 Fiscal Year Research-status Report
監獄のアーカイブ形成と歴史認識-近代のアジアにおける英領植民地と日本を事例として
Project/Area Number |
19K13363
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮本 隆史 東京大学, 文書館, 助教 (20755508)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 監獄 / アーカイブ / 歴史認識 / 歴史叙述 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度はコロナ感染症の影響により、文書館や資料館で予定していた資料調査ができず、ウェブ経由で入手可能な資料を中心に研究を行なわざるをえなかった。2019年度に引き続き、英領インドと日本の監獄運営に関係する資料とともに、囚人によって監獄がいかに経験されたかを示す資料を検討する作業に力を入れた。 英領インドについては、北インドのベンガル管区、北西州、パンジャーブ州を中心に、監獄規則(Jail Manual)および英領インド規模の監獄関係官僚による委員会・会議の報告書の比較検討を継続した。また、囚人たちによる書き物の検討として、ウルドゥー語と英語の資料の検討を開始した。ウルドゥー語資料としては、「ワッハーブ派」の活動家であったとされ、アフガーニスターンのイスラーム勢力に資金を送ろうとした罪で1866年にアンダマーンに流刑に処された、ムハンマド・ジャアファル・ターネーサリー(1838-1905年)による、『黒い水:奇妙な歴史(Kala Pani: Tawarikh-e Ajib)』の内容の分析を中心的に継続中である。19世紀末以降に民族主義運動が盛り上がるとともに収監された運動家たちも書き物を残しているが、これらについてもウェブ上のデジタル・アーカイブを利用して可能な範囲で資料調査を行なった。この資料調査は2021年度も継続する予定である。 明治日本については、2019年度に引き続き、『監獄協会雑誌』上に掲載された論稿の検討を継続した。また、福岡県大牟田市の三池集治監における、囚人の記憶に関する資料の読解を行なった。特に注目しているのは、大牟田囚人墓地保存会で中心的な役割を演じた小崎文人が収集した、囚人に関する聞き書き記録である。大牟田市立図書館に収蔵されているこの資料の分析を行なった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ感染症流行の影響で、予定していた国内外の資料調査ができなかった。また、監獄関係資料のテキストデータ化のためには、現地語の能力があるアルバイト作業者によるマークアップ作業を確認しながら進めるため、作業者と同席して行なうことを計画していたが、コロナ感染症流行のためこの方法を取ることができなかった。そのため、すでに収集済みの資料とオンラインで入手できる資料の検討・分析を行なった。 監獄関係のアーカイブのネットワーク形成過程の解明という研究目的のためには、英領インドの北西州の監獄関係資料のテキストデータ化を、2019年度から継続しているが、上記の理由によりアルバイト作業者を雇用することが困難であった。コロナ感染症流行の収束後に作業を直ちに再開できるよう準備を整えている。日本の監獄関係資料については、オンラインで利用できる国立公文書館および国立国会図書館の資料を中心に、明治期の監獄に関する資料調査を継続した。 本研究のもうひとつの目的である、歴史叙述の比較分析については、投獄された人物による手記などの書き物の分析を予定通り開始した。しかし、文書館等での資料調査が困難であったため、資料の収蔵状況を体系的に明らかにするには至っていない。現在までに収集できた資料の読解と分析を進めており、2021年度もこの作業を継続する予定である。 成果に関しては、コロナ感染症流行のため資料を体系的に収集することができなかったため、2020年度中は公表するに至らなかった。今後は、英国の福音主義とインドの監獄改革の関係について、龍谷大学南アジア研究センターで報告することが決まっている。また、囚人による流刑監獄に関する書き物についての分析を、2021年度の日本南アジア学会で報告すべく応募中である。日本の監獄関係の資料については、三池集治監の囚人に関する言説についての論文を執筆中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、コロナ感染症流行の影響で計画にやや遅れが出てしまったためこれを取り戻す。国内外の文書館・資料館などで文献調査を行なうことが引き続き困難となる可能性があるため、文書館等が提供するオンライン複写サービスなどを最大限活用する。 英領インドの監獄に関しては、2020年度までに主な対象とした時期に続く、20世紀に入ってからの展開について資料の分析を行なう。2020年度は、コルカタのアリープル監獄やデリーのティハール監獄などを対象とした分析を行なう予定であったが、海外での調査ができなかったため体系的な資料収集ができなかった。一方で、パンジャーブ州の監獄関係資料を入手することができたため、当面はこれら資料の検討を行なう。状況が許すようであれば、インドに渡航して現地における監獄についての歴史認識に関する調査を行なう。 日本の監獄に関しては、2020年度は宮城集治監関係の資料の収集と分析に着手する予定であったが、コロナ感染症流行の状況において、宮城県に赴いて調査を行なうことは困難であった。すでに入手済みの三池集治監関係の資料の分析を深めるとともに、図書館間相互貸借サービスや複写サービスなどを活用し、刊行物に関しては地域によらず広く収集する。状況が許すようであれば、仙台および大牟田で資料調査を行なう。 2021年度は、コロナ感染症流行下において、可能なかぎりの手段を用いて資料収集を実施し、オンラインで参加できる国内外研究会・学会等での報告をするとともに、学術論文の執筆によって成果の発表を行なう予定である。
|
Causes of Carryover |
コロナ感染症流行のために、国内外の文書館・資料館に実際に赴いての調査ができなかったため、旅費を支出できなかった。また、資料のテキストデータを作成するために、謝金によるアルバイト作業者に依頼する計画であったが、感染症対策のためにアルバイト作業者が出勤できる状況ではなく、謝金を支出することもできなかった。 2021年度は、感染症対策の観点から同様の状況が生じる可能性がある。資料収集に関しては、文書館のオンライン複写サービスや、図書館間相互貸借サービスおよび複写サービスなどを活用することとし、実際に資料保存機関を訪問せずとも可能な範囲で実施する。 また、データ作成に関しては、工程を見直すことで可能となる作業を優先して業者発注するといったかたちで、謝金による作業者の出勤が不可能な場合も作業が進められるようにする。また、コンピュータ周辺機器やソフトウェアの導入によって効率化できる部分はできる限り自動化する。 状況が許すようであれば、当初の計画どおり国内外の文書館・資料館での資料調査を実施し、ウルドゥー語・ヒンディー語資料のデータ作成といった謝金による作業者でなければ困難な作業を進める。
|