2021 Fiscal Year Research-status Report
監獄のアーカイブ形成と歴史認識-近代のアジアにおける英領植民地と日本を事例として
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19K13363
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮本 隆史 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 助教 (20755508)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 監獄 / アーカイブ / 歴史認識 / 歴史叙述 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は前年度に引き続きコロナ感染症の影響が大きく、文書館や資料館の現地での資料調査ができなかった。そのため、すでに入手していた資料の分析に力を入れつつ、ウェブ経由で入手可能な資料の収集を行なった。具体的には、英領インドと近代日本の監獄関係の公文書類と、囚人による書き物の検討を中心的に行なった。 英領インドについては、北インドのベンガル管区、北西州、パンジャーブ州を中心に、監獄関係の公文書の分析を進めた。特に年次報告書の検討に力を入れた。また、囚人による書き物の検討も継続している。北インドの「ワッハーブ派」の活動家であったとして流刑に処された、ムハンマド・ジャアファル・ターネーサリー(1838-1905年)のウルドゥー語による書きものとして、『奇妙な歴史:ポートブレアの歴史(Tarikh-e Ajib: Tarikh-e Port Blair)』、『奇妙な歴史:黒い水(Tawarikh-e Ajib: Kala Pani)』、『奇妙な歴史:アフマド伝(Tawarikh-e Ajibah: Sawanih Ahmadi)』の三つの著作の内容の分析を進めている。19世紀末以降の民族主義運動が盛り上がる時期に収監された運動家たちの書き物としては、ヴィナーヤク・ダーモーダル・サーヴァルカル(1883-1966年)による『黒い水(Kala Pani)』の分析を行なっている。この他の民族主義運動家たちの書き物についてもウェブ上のデジタル・アーカイブを利用して文献調査を行なっている。明治日本については、『監獄協会雑誌』上に掲載された論稿の検討を継続するとともに、1960年代に活動を展開した大牟田囚人墓地保存会の資料の読解を行なっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度に引き続き、コロナ感染症流行の影響で、予定していた国内外の資料調査ができなかった。また、監獄関係資料のテキストデータ化のために、現地語の能力があるアルバイト作業者によるマークアップ作業を同席して確認しながら進めることを計画していたが、コロナ感染症流行のためこの方法が取れなかった。すでに収集済みの資料とオンラインで入手できる資料の検討・分析を継続した。 英領インドの監獄関係資料のテキストデータ化を2019年度から継続しているが、上記の理由によりアルバイト作業者を雇用できなかった。コロナ感染症流行の収束後に作業を直ちに再開できるよう準備を整えつつ、できるかぎり自力で作業を進めている。そのほか、オンラインで利用できる公文書館や図書館の電子化資料を中心に、資料調査を継続している。 歴史叙述の比較分析については、投獄された囚人による書き物の分析を継続している。しかし、海外渡航が困難であったため、体系的な資料の収蔵状況調査はできていない。現在までに収集できた資料の読解と分析を深める方向で作業を進めている。 成果の発表に関しては、NIHUプロジェクト「南アジア地域研究」龍谷大学拠点ワークショップ(2021年6月19日)、NIHUプロジェクト「南アジア地域研究」東京大学拠点ワークショップ(2021年8月30日)、Antar-rastrie Parisanvad: Mahatma Gandhi ke Sapnon ka Bharat aur Azadi ke 75 vars(国際会議マハートマー・ガーンディーの夢のインドと独立後75年)(2021年10月2日)、日本南アジア学会第34回全国大会(2021年10月9日)、第17回松下幸之助国際スカラシップフォーラム(2021年10月30日)で発表した。また、『印度民俗研究』20号で囚人の書き物について翻訳と解題を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度および2021年度は、コロナ感染症流行の影響で計画にやや遅れが出てしまったため、これを取り戻す計画である。国内外の文書館・資料館などで文献調査を行なえる状況ができれば、ただちに行なう準備を整えている。一方で、コロナ感染症流行のため引き続き現地での文献調査が困難となる可能性もあるため、文書館等のオンライン複写サービスなどを活用する。 2022年度は最終年度であるため、これまでに入手できている資料を中心に、分析をまとめて発表することに力を入れる。2020年度・2021年度は、海外での調査が困難で体系的な資料収集ができなかった。一方で、これまでのオンラインでの資料収集によりウルドゥー語文献の調査が当初予定より大きく進んだ。これら資料の検討を行ないつつ、状況が許すようであれば、インドとパーキスターンに渡航して、現地での監獄についての歴史認識に関する調査を行なう。また、現地の書店に刊行本など資料の収集を依頼する予定である。 日本の監獄に関しても、文書館での文献調査を大きく進めることは困難であり続けた。入手済みの三池集治監関係資料の分析を深めるとともに、図書館間相互貸借サービスや複写サービスなどを活用して資料収集の努力を続ける。 2022年度も、可能なかぎりの手段を用いて資料収集を実施するとともに、資料の読み込みと執筆に力を入れる。オンラインで参加できる国内外研究会・学会等での報告をするとともに、学術論文の執筆によって成果の発表を行なう。
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Causes of Carryover |
コロナ感染症流行のために、国内外の文書館・資料館・図書館などでの現地の調査ができず、旅費を支出できなかった。また、資料のテキストデータを作成するために、言語能力があるアルバイト作業者に依頼する計画であったが、感染症流行のためにアルバイト作業者の雇用も難しく、謝金を支出することもできなかった。また、データ作成のために十分能力がある適切な外部業者を見つけることも困難であった。 2022年度も、感染症対策の観点から同様の状況が生じる可能性がある。資料収集に関しては、文書館のオンライン複写サービスや、図書館間相互貸借サービスおよび複写サービスなどを活用することとし、実際に資料保存機関を訪問せずとも可能な範囲で実施する。また、データ作成に関しては、アルバイト作業者や業者への依頼が困難な場合は、ソフトウェア等を利用して作業を効率化し進められるようにする。 コロナ感染症流行の状況を見て実施できるようであれば、国内外の文書館・資料館での資料調査を計画通り行ない、ウルドゥー語・ヒンディー語資料のデータ作成を謝金による作業者に依頼して進める。
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