2021 Fiscal Year Research-status Report
外交史料からみる近代タイの文化政策: 絶対王制期を中心として
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19K13367
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
日向 伸介 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (60753689)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | タイ / 文化政策 / 外交関係 / イギリス / フランス / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の主要研究業績は以下の2点である。 第一に、絶対王制期のシャムにおいて、立憲主義の導入を国王に直接提案した最初の試みとして知られる1885年の奏上について翻訳と研究を進め、「プリッサダーン親王と絶対王制期シャムの立憲思想:1885年「王族・官僚による国政改革の奏上」をめぐる一考察」と題する報告をおこなった。1880年代中葉は、清仏戦争(1884~1885)や、第三次英緬戦争(1885~1886年)が起こった時期であり、シャム政府は自国の植民地化を防ぐ方策を模索していた。その過程で、外交官としてヨーロッパに滞在していたプリッサダーン親王を中心とする王族・官僚らがラーマ5世王に対しておこなったのが上述の奏上である。前半生は外交官として活躍したプリッサダーン親王であったが、後半生は不遇であり、その大半を僧侶として国外で過ごした。しかしその間、1898年にインド北部で発見された仏舎利のシャムへの寄贈事業に関わっていることから、本研究課題に関連して重要な人物である。2022年度は引き続き翻訳作業にくわえ、プリッサダーン親王の生涯について伝記的な事実をまとめる。 第二に、近代シャムの文化政策と関連して、タイ版のラーマーヤナであるラーマキエンとその舞台芸術であるコーンについて、シャム政府は国際社会のなかでそれらを自国文化としてどのように提示してきたのか、そして知識人はどのような意義をもつ文化として認識してきたのかというふたつの観点から論考を執筆し、共著として発表した。 くわえて、2020年度に日本タイ学会で口頭発表をおこなった書評(赤木攻著『タイのかたち』)を同学会の学会誌に投稿し掲載された。シャムを訪れた外国人の存在に着目することによりタイ人の国民性を解き明かそうと試みた同書は本研究課題に近い関心をもつことから、成果のひとつとしてあげておきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、2019年度に予備的な史料調査をおこなったのち、2020~2021年度にかけて国外の図書館・公文書館において本格的な調査をおこなう予定であったが、残念ながら前年度に引き続き2021年度も新型コロナウイルスによる出入国規制のため現地調査が叶わなかった。しかし、外交関係に着目しながら絶対王制期のシャムにおける政治と文化の様態を明らかにするという目的は変更せず、上述のとおり、共著の刊行、研究会報告、書評の発表などの成果を着実にあげることができた。したがって、制約はあるものの、おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の問題のため、国外での史料調査は2022年度も引き続き困難であると予測される。そのため、2021年度に引き続き、初年度に収集した史料と二次資料をもとに研究を進める。
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Causes of Carryover |
2021年度中に国内外で史資料調査をおこなう予定であったが、新型コロナウイルスによる規制により実施することができなかったため次年度使用額が生じた。とくに国外については、現地での史料調査が実施できるかどうかは2022年4月現在でもなお不透明なため、国内でタイ関係の外交史料の調査をおこなったり、二次資料の購入にあてるなど、状況に応じて柔軟に使用する予定である。
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Remarks |
(書評)日向伸介.2021.「赤木 攻著『タイのかたち』 めこん(2019年刊)」『年報タイ研究』21: 71-75.
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Research Products
(3 results)