2023 Fiscal Year Annual Research Report
北宋軍事基盤と西北「辺境軍事社会」の東部ユーラシア世界における歴史的意義
Project/Area Number |
19K13368
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
伊藤 一馬 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 招へい研究員 (90803164)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 北宋 / 辺境軍事社会 / 西兵 / 経略安撫使体制 / 東部ユーラシア / 蕃兵 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度までと同様に諸史料の蒐集・整理を継続したほか、最終年度としてこれまでの研究成果の総括として北宋の西北「辺境軍事社会」の東部ユーラシアにおける位置づけを検討した。 11世紀半ばの西夏建国と宋夏戦争の勃発を契機として、西北地域における北宋の軍事的緊張が急速に高まった。このような情勢の中で、北宋は西北地域において経略安撫使を頂点とする広域地方区画「軍事路」を設置し、西夏に対する防衛戦略・情報伝達システムを整備し、新たな地方軍事体制――経略安撫使体制――を構築した。経略安撫使体制は、以後北宋の西北地域における軍事体制の基盤となっていく。 北宋の軍事行動を支えたのが「西兵」と呼ばれる西北地域に展開する軍事力であった。「西兵」は11世紀半ば以降、北宋で最も頼みとなる軍事力として西北地域のみならず北方や南方の軍事戦線にも投入されるようになり、北宋の軍事行動を広く支える存在となっていた。「西兵」軍団の中で蕃兵と称されるタングート系・チベット系の集団が最も精強であった。北宋にとっては蕃兵の確保が軍事上重要な課題であり、行政・司法・経済面での優遇措置などを通じて彼らをつなぎ留めようとしていた。 軍事体制や軍事力を維持するために必要な財源や物資については、宋代に形成された全国的物流・全国市場と結びつくことで江南(南中国)の経済力が支えていたほか、西北地域の域内での軍糧調達・輸送や中央からの財源投入が見られ、重層的な財政・流通によって確保されていた。また、西北地域に投入される財物には、交易ネットワークを通じて東部ユーラシア規模で流通するものも見られ、北宋内外の交易圏・流通圏とも結びついていた。 このように、軍事・外交・交易・流通などを通じて東部ユーラシアと結びついていた北宋の西北「辺境軍事社会」は、当時の東部ユーラシア情勢の変動や北宋の対応のあり方が反映される空間であったと言える。
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