2020 Fiscal Year Research-status Report
新出史料『吏文謄録』を利用した朝鮮燕行使の基礎的研究
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19K13369
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
鈴木 開 明治大学, 文学部, 専任講師 (80739425)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 壬辰戦争 / 燕行使 / 吏文謄録 / 事大文軌 / 朝鮮王朝 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.『吏文謄録』所収文書のリスト化を継続した。同時に、他史料と内容が重複する文書に対する調査にも着手した。とりわけ、ほぼ同時代に刊行された朝鮮・明間の外交文書集である『事大文軌』との関係について考察した。『事大文軌』は朝鮮王朝の対明外交姿勢を顕彰する目的で編纂されたものであるため、王朝政府にとって都合の悪い文書は採録されないという問題点が従来から指摘されていた。これに対して『吏文謄録』は実務用に編集されたものであり、史料価値が高いという見通しが得られた。こうした成果を壬辰戦争研究会において報告した。その際には個別文書研究の課題の一つに挙げていた壬辰戦争時に朝鮮側に投降した日本兵である「降倭」に関する文書を紹介した。壬辰戦争に関心を持つ日本、韓国、中国の研究者とも意見交換することができた。 2.朝鮮燕行使に関する重要史料である『南漢日記』の分析も継続した。同書は『吏文謄録』と同様に朝鮮王朝の公的記録の一種であり、王朝政府による公文書の管理・編纂体制についても知見を深めることができた。 3.壬辰戦争に関連が深い李舜臣に関する執筆依頼があった。そのため、当時の朝鮮王朝の政治状況について再整理する機会をえて、『吏文謄録』編纂当時の政治情勢について知見を深めることができた。『吏文謄録』所収文書の政治的背景をより詳細に明らかにするうえでも有益であった。 4.『吏文謄録』所収文書は「事大文書」とも称されるように朝鮮王朝の外交体制を形容する事大体制と密接な関係にある。このうち「事大」という言説の近代日本における変容を扱った『事大主義』という書籍が出版された。この書籍の検討をつうじて「事大」に対するイメージの変遷について知見を深め、『吏文謄録』所収文書が持つ現代的な意義を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『吏文謄録』所収文書のリスト化作業は着実に進展している。また所収文書を利用した学会発表、論文執筆も同時に進めることができ、論文などのかたちで次年度中には刊行される見通しである。
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Strategy for Future Research Activity |
『吏文謄録』目録作成に際して『事大文軌』との重複状況や、士族の文集に収録される関連文章などの情報を追加し、利便性の向上をはかる。学会発表や論文発表により、研究成果の周知に努める。
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