2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K13374
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
森 万佑子 東京女子大学, 現代教養学部, 准教授 (30793541)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 朝鮮 / 外交 / 中華 / 大韓帝国 / 宗属関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近年の朝鮮史研究で指摘されている朝鮮外交の「戦略」について、そうした「戦略」がどういった考えを基盤として、何を目的に立てられていたのかという「問い」を掲げている。そうした「問い」に取り組む一つの方法として、近代朝鮮の対外関係の展開と外交の形成に、中国の存在、より具体的には中華(中華世界・中華秩序)の存在形態が深く関わっていることに留意する。朝鮮の対外関係は一義的には外交であるが、外交を意味しない側面もあり、それは事大交隣の概念や行為と深く関わっていたことが考えられる。元来、二つで一つであった「事大交隣」が「事大」と交隣」に分岐していく点に着目し、朝鮮政府の外交や、国際関係との切り結び方を研究する。とりわけ、近世より日朝交渉を管掌してきた対馬と釜山の関係、朝鮮政府がアメリカのワシントンに派遣した駐米全権大臣、および中国の天津に派遣した駐津督理通商事宜(以下、駐津督理)の活動の解明、分析に着目する。 こうした研究視角は、単に朝鮮半島内部で展開された政治外交だけを研究対象とするのではなく、朝鮮外交が外部(対馬・日本、天津・清、アメリカ)と接触した際に、国内の外交政策がどのように変容し、外部に伝わるのか(伝えようとするのか)についても研究の主眼を置いている。 しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、韓国(ソウル、釜山)、アメリカ(ワシントン)、中国(天津)での調査、史料収集は行えず、国内調査も控えた。 そのため、コロナ禍の状況下、本研究の「問い」への取り組みを行うため、①申請者の手元にある駐津督理の史料の解読・分析、②オンライン上で史料公開が進んでいる大韓帝国期の外交の解明、の二つに研究方法を若干変更して取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、以下の4つの成果を公表した。一つ目は、釜山と対馬の関係から、日朝関係に迫り、そこから事大交隣の実態を浮かび上がらせる研究として、「交隣の論理と中華-一八七四年「密咨」の衝撃」(岡本隆司編『交隣と東アジアー近世から近代へ』2021年、名古屋大学出版会、132~155ページ)を発表した。本来は、対馬博物館や釜山やソウルでの調査をしてその結果を反映させたかったが、叶わなかったため、現状で研究できる範囲で執筆した。コロナウイルス感染症が収束したら現地調査を行い、後続論文を作成したい。 二つ目は、駐津督理の活動実態のうち、とりわけ交隣の理念である「敵礼」概念に対する駐津督理の理解が分かる事例として、1890年の趙太妃逝去時の服喪問題を史料から発見し、解読、分析した。中国の儒教経典なども読み込みながら、「天津からみる朝鮮の『交隣』-事大における敵礼の模索」(岡本隆司編『交隣と東アジアー近世から近代へ』2021年、名古屋大学出版会、232~261ページ)にまとめた。 三つ目は、駐津督理が果たした役割について、これまでは外交・交渉面に着目してきたが、駐津督理の本来の業務であった貿易・通商面に着目して、その機能を分析した。とりわけ、高麗紙の運搬をめぐる駐津督理と天津海関道との交渉を史料から発見し、高麗紙運搬からみる朝清陸路貿易の実態、およびそれへの列強の関わり方を研究した。本研究は、「天津における事大の変容-高麗紙をめぐる議論に着目して」(2021年度東洋史研究会大会、2021年11月7日、オンライン、招待講演)として発表した。現在、論文にまとめている。 最後に、2020年度に報告した大韓帝国期の外交を「大韓帝国の成立と日本への併合-「中華」と近代国際関係のはざまで」(一般社団法人平和政策研究所『政策オピニオン』No.210、2021年9月1日)として論文にまとめて発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、まず2022年4月30日に開館する対馬博物館に行き、調査をしたい。併せて、2020年に開館したが新型コロナウイルス拡大の関係で訪れることができなかった北海道のウポポイ(民族共生象徴空間)も訪問し、博物館としての展示方法や史料収集について比較検討したい。加えて、ずっと訪問できずにいるアメリカ(ワシントン)の駐米韓国公使館を訪ずれ、博物館内を閲覧、史料収集したい。また、可能な限り、駐米韓国公使館の復元に関わった方々にもインタビュー調査をし、現代韓国社会における大韓帝国の歴史認識、記憶のされ方についても検討を深めたい。 韓国と中国は、現段階では隔離期間があるため、授業や会議などとの兼ね合いで渡航できるか不明であるが、渡航できれば、本研究の研究法上に示した調査、史料収集等を行いたい。 そして、2022年度は海外出張や各地での史料閲覧・収集ができない中でも、研究を進めてきた、①駐津督理の高麗紙運搬に関する研究、②駐津督理の全体像に関する研究、③大韓帝国期の外交の三つについて研究成果を発表する予定である。①②は論文、③は書籍を予定している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、研究遂行に必要な海外出張が行えず、国内出張もまん延防止等重点措置公示を受け控えた。そのため、当初旅費として計上していた金額を使用することができなかった。2022年度は、出張申請が認められれば、研究計画に記載した対馬、韓国(ソウル・釜山)、アメリカ(ワシントン)、中国(天津)をはじめとして、出張に行き助成金を使用したい。
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Research Products
(5 results)