2019 Fiscal Year Research-status Report
1920年代在台日本人社会の「台湾人」認識―台湾議会設置請願運動をめぐって
Project/Area Number |
19K13376
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
周 俊宇 早稲田大学, 地域・地域間研究機構, 招聘研究員 (70812650)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 台湾研究 / 植民地政治史 / 台湾政治史 / 台湾思想史 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、1920年代に主として在台日本人記者により執筆された台湾社会の変容が論じられた著作を中心に、近代台湾史上初めて「台湾人」(漢人、台湾先住民は含まない)自らによる本格的な政治運動である台湾議会設置請願運動への視線を従来日本人の間で積み重ねられてきた「支那民族性」への認識に関連付けて論じた。またこの時期の言説に多くみられる「民族心理」という表現を当時の文脈において考えるとともに、内地の議会運動に対する認識と構造的にどのような違いが見られるかについても考察した。 この時期の「民族心理論」において、「台湾人」エリートが求める自治は、単に「支那民族」の「社会」を重視し、「国家」からの干渉を避けたいという「自治」の履き違えとして理解する意見もみうけられた。こうした認識は、1920年代まで植民地台湾で近代日本の中国認識と共有しつつ蓄積されてきた「支那民族性」という認識枠組を継承する側面もあれば、同時代の西洋に発する民族心理学の受容の側面もあり、そこには、運動者が主張する「民族自決」との対立構図が見受けられることも確認した。 この運動についてはすでに厚い研究蓄積があるが、「台湾人」の主体性の立場から出発するものが多い。また、内地と在台日本人の間で、運動への見方はそれぞれ異なる様相を呈していたことは運動関係者により指摘されているが 、在台日本人社会・論壇の観点はまだ検討の余地が残っている。今年度の研究実績は、「支那民族性」との関連性からこの時期の在台日本人の「民族心理論」なる言説に注目し、1920年代における「台湾人」認識の語りの一側面を明らかにしたため、台湾議会設置請願運動研究そのものへも新しい知見を寄与することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は先行研究により明らかになった台湾議会設置請願運動の経緯と時代的背景について整理し、在台日本人記者の言説を中心に収集・整理・解読・分析の作業を行ったほか、論文としてもまとめることができたため、当初の計画以上に進展していると考える。 なお、今年度の研究成果は日本台湾学会の2020年第22回学術大会に採用され、学会での口頭発表の機会を得た。本来なら5月の下旬に早稲田大学で対面での議論という予定であった会議が、コロナ感染拡大の影響により、書面討論という形式になったが、書面での質疑を通じて議論を深めることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度の推進方策は、本研究課題に関連する同時代における日本や東アジアの思想状況まで視野を広げるほか、今年度つかんだ論点の展開をさらに深めることです。また、植民地台湾における台湾議会設置請願運動への視線について、記者のほかに、第一線で直接台湾人と接触する立場にいた中間指導者、すなわち警察官も言説を残していたため、引き続きそれらを読み解きたい。 以上により、今年度における学会での口頭発表をもとに、研究論文を完成し、本研究課題の最終成果として、学会誌に投稿する予定である。
|
Causes of Carryover |
次年度に配分された予算が少ないため、来年度の研究がより有効的に進められるために、次年度使用額が生じるように、調整を行った。
|
Research Products
(1 results)