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2020 Fiscal Year Research-status Report

ヴィクトリア朝におけるフェミニズムと人権理念の関係について

Research Project

Project/Area Number 19K13382
Research InstitutionHokkaido University

Principal Investigator

田村 理  北海道大学, 文学研究院, 専門研究員 (00768476)

Project Period (FY) 2019-04-01 – 2023-03-31
Keywords人権理念 / 帝国主義 / フェミニズム / ヴィクトリア朝 / 売春
Outline of Annual Research Achievements

ヴィクトリア朝におけるフェミニズムの形成過程を、人権理念の女性に対する適用という観点から再検討する。「万人は生来にして自由」を謳う人権理念は、18世紀後半の環大西洋世界において精錬された。それは元来、身分制と体制教会に即した、旧態依然の国制原理を非難する道具であった。従ってその恩恵を享受できるのは、有産者の白人男性のみである点が暗黙の前提とされていた。ところが19世紀から20世紀にかけて、人権理念の標榜する普遍主義を徹底すべきとの声が女性、黒人、従属民族の間から上がった。また生命、身体、自由のみならず、社会の中で人間らしく生きる権利も保障されるべきとの声が、貧困に苦しむ労働者の間から上がった。本研究は、個別の事例研究を通じて、女性による人権理念の援用とその効果、およびそれに付随する問題点を明らかにしようとする。
事例研究の対象は、リヴァプールにおける女性の性労働者の救済運動である。ただ後段で示す理由から、研究2年目ではこれに関する史料分析は十分に行っていない。代わりに、ヴィクトリア朝における性売買の研究史を整理した。すなわち、同時代ではW・アクトンら医師が、リベラリズムを批判し、国家による性統制を推進する目的の下で、売春行為の科学的調査に着手した。彼らの貢献もあって、労働者階級を保護する代わりに規律する、福祉国家の形成の道筋が立った。ところが1970年代になると、J・ウォーコウィッツら歴史家が、マルクス、ニーチェ、フーコーらの哲学に拠りつつ、国家による性統制、特に労働者階級の女性に対するそれを批判する立場から、当該対象に再び光を当てた。しかし、この立場に与する歴史家は、貧困女性の自由な性行動の内に体制打破への希望を見出す一方、彼女らが置かれた苛酷な物質的条件を軽視している。また、国家の保障する人権理念にアクセスしようとする、彼女らの姿勢に対しても否定的である。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

1年目の3月に予定していたリヴァプール文書館での史料調査を、新型コロナウィルス感染拡大を受けて直前で断念し、延期と決めたところ、今日に至ってもなお実現の目処が立たないため。年度初には、夏か春には海外渡航が実現するのではないかという、楽観的な見通しを描いていたが、その通りにはならなかった。それゆえ、下記の通り研究計画の見直しが必要になった。
(i)事例研究は、現地における史料調査が可能になった時点で行うこととした。ただ、これに関してもノータッチというのではなく、日本において閲覧が可能なデータベース等を利用し、史料の入手、読解を継続している。とりわけ、偶然の事情ではあるが、所属する研究機関(北海道大学)において、ラウトレッジ・フェミニズム史(Routledge History of Feminism)というデータベースが2月から利用可能になり、一次史料へのアクセス状況が飛躍的に改善した。
(ii)ヴィクトリア朝の性売買に関する、同時代から今日に至る研究史を整理し、サーヴェイ論文として刊行する準備を行っている。こちらは順調である。すなわち、19世紀の医師W・アクトンらによるリベラリズム批判の研究から、1970年代の歴史家J・ウォーコウィッツらによる福祉国家批判のそれを経由して、今日におけるネオリベラリズム批判のそれへと至る展望を見出すことができた。

Strategy for Future Research Activity

9月ないし3月にリヴァプール文書館での調査を行うべく、スケジュール調整を済ませている。目的は、ヴィクトリア朝のリヴァプールにおける性産業(sex industry)、およびそこにおける性労働者(sex worker)の救済運動に関する史料の探索である。刊行史料については、2月よりラウトレッジ・フェミニズム史というデータベースを利用できるようになり、アクセス状況が改善した。とはいえ、新聞や手稿については現地に赴く以外にアクセス方法がない。しかしながら、現時点における日本ならびにイギリスでの新型コロナウィルスの感染状況、およびワクチンの摂取状況を考慮すれば、年度内での実現が困難となる可能性もある。従って、データベースを通じて入手した史料を可能な限り分析し終え、現地調査が解禁された際に、即座に対応できるよう準備を整えておく。あるいは現地の協力者に調査を依頼するという、最後の手段をも想定しておく。なおそれと並行して、ヴィクトリア朝の売春研究のサーヴェイ論文を執筆する。内容は先述の通りである。今秋までの投稿を目指している。

Causes of Carryover

イギリス、リヴァプールでの史料調査が再三にわたり、新型コロナウィルス感染拡大により延期となったため。海外渡航が一般人にも可能となった時点で、即座に実施できるよう準備を整えている。

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Published: 2021-12-27  

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