2019 Fiscal Year Research-status Report
フランス絶対王政末期における身分社会への包摂をめぐるポリスの実践
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19K13383
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
松本 礼子 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (60732328)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ポリス / 絶対王政 / 社会的周縁 / 18世紀 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、18世紀パリを中心に絶対王政期の統治構造の特徴である「社団的編成」の埒外に存在した周縁的社会集団に着目し、都市統治一般を意味するとともに秩序維持を担っていた「ポリス」側が彼らをいかに社会内部に包摂あるいは排除したのか解明するものである。伝統的統治が理念的にも実態的にも行き詰まりを見せていた18世紀後半において、多様化し、流動化する社会集団に対し、権力側の対応がいかなる展開をみせるのかを解明し、絶対王政末期の政治社会の理解に新たな視座を提供することを課題としている。 令和元年前半には、18世紀末のポリス論について研究の再整理を行った。都市統治を統括する立場にあった警視総監や現場のポリス担当官の回顧録が複数残されているが、本課題代表者は特に旧体制末期の警視総監ルノワールの回顧録の精読し、都市統治の現場で権力側から「周縁的」とされ、特別な監視対象となっている社会集団を特定し、当該社会における位置づけを確認した。 そのうえで、本課題代表者は令和元年8月にフランスに赴き、国立図書館・アルスナル館で史料調査と収集を行った。具体的には、絶対王政期の基本的な社会構造から宗教的に逸脱した社会集団としてのユダヤ人をめぐるポリス側の記録を確認した。同時に、個人のレベルにおいて「家」や「同業組合」といった社団の埒外に置かれた存在をめぐる権力側の対応を確認できる史料も発掘できた。権力側による周縁的存在の組織化のプロセスと同時に、それら人々が内発的に支配秩序のなかに自らを位置づけようとする契機・様相を明らかにする目的でこれら史料の整理と分析を進めた。従来の研究では言及されてこなかった事例を含むこれら史料の発見は、令和元年度の主たる成果であり、その成果の一部は令和2年度に出版予定の論集『近世の身分とはなにか―日仏の対話から(仮)』に掲載される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では以下の4つの段階を設定している。(1) 統治をめぐる理念・政策の解明 (2) 統治のための技術の解明 (3) 身分社会におけるポリスの役割の解明 (4) 日仏近世比較史への還元。 このうち、(1) についてはフランス国立図書館の史料電子化拡大にともなって、本研究課題に必要なコーパスを確定できた。(2) については、本研究代表者の予備的な史料調査の段階で入手済みの史料の整理と分析を進めると同時に、令和元年度夏期休業中の現地調査でさらなる史料の拡充を実現することができた。ただ、史料収集の際に特定の社会集団に関するポリス側の記録にあわせて、権力側から社会的周縁者とみなされた個人の事例も複数発掘することができたので、令和元年度はそれら事例の分析を主として行うこととなった。その結果、(3) については、権力側が周縁的存在をいかに社会に包摂(排除)したかという側面よりも、社会的周縁者個人が支配秩序のなかに自らを位置づけようとするプロセスの分析の方により力点が置かれた。(4) については、令和元年度の史料調査の成果の一部を論文の形でまとめ、今後出版予定である。本研究課題の着想背景には約10年来の日仏近世史の研究交流があり、本研究代表者もその当初から参加する機会を得てきたが、本論文の刊行によって、日仏近世比較史への還元という目的の一端を果たすことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き令和元度の海外調査で収集した個別事例に関する史料の精読と分析を進める。統治のための技術をめぐる史料ついては比較的に十分な事例数を入手済みなので、令和2年度は統治をめぐる理念・政策に関わる史料の読解を進めつつ、旧体制末期の都市統治のあり方の技術的な側面についての分析結果を発表する予定である。 また、令和2年度もフランスでの現地調査でさらなる史料の拡充と、現時点で入手済みの史料についての補足、再確認を行う予定であるが、新型コロナウィルスの感染拡大状況によっては渡仏が叶わない場合が予想される。その際には、フランス国立図書館の電子化された手稿史料のなかから本研究課題に適するものがあれば、そちらを優先して進めていくこととしたい。
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Causes of Carryover |
令和元年度末(3月16日、17日)に日仏二国間セミナー「近世身分制社会を考える-フランスと日本の比較から」(於:フランス社会科学高等研究院)への参加が予定されていたが、日仏両国において新型コロナウィルスの感染が大幅に拡大したので、当該セミナーの開催が延期となった。滞在費については宿泊先に所定のキャンセル料を支払ったが、渡航費については全額払戻を受けたため、次年度に繰り越すこととなった。 令和2年度の研究費の主たる使用目的は、(1) 海外史料調査および国際研究集会参加のための渡航費・滞在費 (2) 文献・資料の購入 (3) 第一次史料のデータ化・PDF化、である。
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