2023 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀ドイツにおける官房学の形成と人口論―自然・道徳・統治の統合―
Project/Area Number |
19K13386
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
紫垣 聡 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 助教 (90712745)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 官房学 / 人口思想 / 人口統計 / ズュースミルヒ / プロイセン / ポリツァイ |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度はおもに、前年度末にベルリンのプロイセン枢密文書館での資料調査で入手した史資料の分析を行った。利用した史料は、18世紀後半にプロイセン政府の主導により実施された人口統計、経済統計およびそれらに関連する君主や政府高官の書簡や指示などの行政文書である。18世紀後半とくに70年代以降、プロイセン王国の各州・郡および都市の人口や農業・工業生産に関する調査が発達し、国家の状態や変化が数量データとして把握されるようになっていった。こうした官庁統計の発達は、ズュースミルヒのような人口学者や官房学における人口論・人口政策とどのように関連していたのか。これまでの分析からは、官房学者らの唱える人口政策にもとづいて統計調査が実施されたとはいえず、むしろ行政の実践において独自に人口と資源に関する数量的な情報が重要な意味を持つようになったことが示唆される。 本研究は、18世紀半ばに国家統治の理論として体系化された官房学について、人口論に焦点を当ててその知的背景を考察した。そのさい人口統計学の祖として知られるヨハン・ペーター・ズュースミルヒに着目し、彼の人口思想が官房学に影響を与えたというだけでなく、両者が18世紀半ばのヨーロッパに広く展開した自然の秩序にもとづく統治のコンセプトを共有していたことを明らかにした。それは自然の法則を適用することで意図した政策的効果を得られるという思考様式を特徴としており、「計る統治」として捉えられる。この点において本研究は当初の課題を達成したといえる。さらにこの研究を通して上述のように、官房学の議論と実際に行われた政策のあいだに、単純な対応ではなく複雑な関係があることが浮かび上がってきた。この問題に取り組むことで本研究を発展させていきたい。
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