2019 Fiscal Year Research-status Report
An empirical research on the relationship of the violence and the honour and its change in the urban society of the early modern Germany
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19K13391
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
齋藤 敬之 早稲田大学, 文学学術院, 助教 (20822977)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 西洋史 / 近世ドイツ / ザクセン / ライプツィヒ / 犯罪史 / 暴力 / 決闘 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、16-18世紀のドイツ・ザクセン選帝侯領の大学都市ライプツィヒを例に、当時の法規範のみならず暴力事件を扱う裁判の記録をも分析することで暴力の形態や経過における名誉の意義を明らかにすること、さらに名誉と結びついた暴力の特殊形態としての決闘の性質や公権力による禁止の論理、当事者と目撃者の認識の相違などを多角的に検討することを目指したものである。 初年度は先行研究の整理と史料収集を課題とした。中近世社会の暴力について、1990年代以降のドイツ犯罪史研究ではN・エリアスの文明化論への批判を原動力に暴力を文化史的に理解する傾向が主流となっている状況を確認し、口頭報告によってその暫定的成果と今後の展望を示すことができた。また決闘についても、これまでは主にU・フレーフェルトの研究に代表されるように19世紀から20世紀のドイツ市民社会との関連で論じられてきているが、決闘の起こりや発展を中近世からたどる研究が2010年代からドイツ犯罪史研究に属する研究者たちによって進展していることを入手した最新文献から知ることができた。 史料収集については、2019年夏に約2週間ドイツに滞在する中でザクセン州立中央文書館ドレスデン館とライプツィヒ大学文書館を訪問し、以下のような成果を上げた。前者では、17世紀後半から18世紀前半にかけてザクセン選帝侯領レベルで繰り返し発布された決闘禁止令を入手し、当時の精力的な規制を確認することができた。併せて同時期の領内における決闘に対する刑事裁判の記録の所蔵状況も調査しそのうち数点を入手した。後者では、決闘禁止令に対応してライプツィヒ大学当局が学生に出した諸命令を入手できたが、学生の決闘の実践に迫る裁判記録などの史料は想定ほどには所蔵されていなかったことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究に関わる研究文献の入手やその整理は順調に進んだ。中近世社会の暴力に関するドイツ犯罪史研究の動向の整理については、先述の通りその暫定的成果を研究報告の形で発表し本研究の意義や方向性をより明確にすることができたが、研究動向論文としてまとめ直し2020年度前半に学術雑誌に投稿する予定である。決闘研究については、若干の遅れがある。なぜなら、暴力に関する研究と重なる点が多いものの、G・v・ベロウやN・エリアスなどの旧来の研究と最新の研究成果とを改めて対比し独立させて論点を整理する必要があるからである。2020年度中に小規模な研究会で口頭報告を行うとともに、学術論文の執筆を準備することとなる。 他方で史料収集については、先述の通りいくつかの有益な未刊行史料を入手できたが、大幅な遅れも生じた。研究計画当初より利用予定としていたライプツィヒ市立文書館が移転作業の遅延によって長らく休館しており、研究代表者が渡航した2019年夏の時点でも利用できなかった。同年11月になって再開したため改めて2020年3月に約10日間のライプツィヒ滞在と同文書館の訪問を予定したが、同時期のコロナウイルスの感染拡大に鑑みて渡航を自粛せざるを得なかった。同文書館には、本研究にとって核となる刑事事件の裁判記録や都市の各種条令といった未刊行史料が所蔵されているため、現時点でライプツィヒに関する実証的な研究を進めることが難しい状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
遅れている史料収集については、2020年4月の時点でコロナウイルスの感染拡大が世界規模で深刻であるため、次回のドイツ渡航計画を立案できる状況にない。少なくとも可能な準備として、現地での史料調査を効率的に行うために文書館など関係各所ともコンタクトを取り情報収集を進めることとする。渡航が可能となった場合の訪問先として、ライプツィヒ市立文書館とザクセン州立中央文書館ドレスデン館を予定している。 このように史料調査の見込みが立たないことを踏まえ、2020年度の課題や作業を以下のように予定する。第一に、先述の通り暴力に関する犯罪史研究の動向を扱う論文を早急に投稿する。第二に、入手した文献を用いて決闘研究に関する動向を整理するとともに近世における決闘を論じる意義を明確にし、研究発表を行う。第三に、2019年夏のドイツ滞在で収集した史料、とくに17世紀後半から18世紀前半にかけてザクセン選帝侯領で発布された決闘禁止令の分析と整理に時間を割き、対象となる決闘の形態や禁止の根拠、刑罰など、当時の決闘を取り巻く枠組み条件を明らかにする。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」欄でも記載した通り、2020年3月に約10日間のドイツ・ライプツィヒ滞在と同文書館の訪問を予定したが、同時期のコロナウイルスの感染拡大を考慮して渡航を自粛した。そのため、この海外渡航に関わる費用が未使用となった。次年度にドイツへの渡航の見込みが立った場合には現地での滞在期間を少なくとも3週間程度と予定よりも長く取るために、海外渡航費に充当することとする。
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