2021 Fiscal Year Research-status Report
共同体の関係「断絶」にみる古代ギリシア世界の外交文化とその変遷
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19K13395
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
岸本 廣大 同志社大学, 文学部, 助教 (20823305)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 古代ギリシア史 / ヘレニズム / 外交 / 演説 / 感情 / メディア / 碑文 / 書簡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、古代ギリシア世界における共同体の外交に着目し、そこで展開された言動を規定する外交文化を明らかにすることを目的とする。 本年度は昨年度に引き続き、ヘレニズム時代のギリシア人の演説についての研究を進めた。その成果の一部は、「共感に訴えるヘレニズム世界の国際人」という論文として刊行された(南川高志・井上文則(編)『生き方と感情の歴史学』山川出版社、2021年4月、85-109頁)。そこでは、ヘレニズム時代に国家を代表して活躍した人々を「国際人」と呼び、彼らの生き方から、外交的成果が高く評価されていたこと、そしてその外交の場で行われる演説で、聴衆の共感を呼び起こすトピックの選定や相手の感情を害さないように語る能力が求められていたことを示した。そこから、国際人の演説を通して共通の感情規範が形成されたことを論じた。 さらに本年度は、ヘレニズム時代からローマ時代にかけて、外交の場におけるコミュニケーションと、そこでどのようなメディアが、どのように用いられているのか、というこれまでとは異なる視角からギリシア人使節の演説の研究を進めた。その成果として、「古代ギリシア世界の外交とメディア――演説、決議、書簡」という題目で報告を行った(第9回前近代におけるメディアとコミュニケーション研究会、Zoomにて開催、2021年12月)。この研究では、文献資料のみならず碑文に着目し、書簡や決議として部分的に記録された演説を分析対象とした。その結果、これまでの研究成果の内容を補強するとともに、文献資料では詳細に記録されなかった外交演説の言説を確認することができた。具体的には、歴史家の著作や、過去の支配者の判決などの様々なメディアが用いられたこと、そして過去の演説が碑文に刻まれることでそれ自体がメディアとして「再利用」されることもあったことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は古典期の外交について研究する予定だったが、COVID-19の世界的流行が未だ収まらず、昨年と同様に海外での調査や、本来は本年度に実施を計画していた研究会が開催できなかった。そのため、古典期についての外交文化については、十分に研究を進められなかった。それを補うために、これまでの蓄積から、先行研究や史料の調査がある程度進んでいるヘレニズム時代からローマ時代にかけての外交について、別の側面から調査するという形に計画を変更した。その結果、予定よりも進行が遅れ、研究期間を延長することとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
変更した計画では、古典期に限らず外交の場におけるコミュニケーションとメディアの関係に注目することにした。演説はその場で行われると同時に、決議や書簡、歴史叙述といったメディアに記録される。それが、別の演説で用いられることもあった。このような演説の「再利用」の事例を分析していく予定である。また、ローマ帝政期のパピルスに記された外交使節の書簡については先行研究で議論がなされており、歴史叙述や碑文を扱った本研究の成果との比較が可能であると想定できる。メディアに応じた再利用の仕方やコミュニケーションの方法といった視点から、ギリシア人の外交文化を明らかにしていきたい。 それと並行して、海外での調査が再開できるのであれば、従来計画していた古典期の研究も進める予定である。特にペロポンネソス戦争後のメガラの言説に注目して、当時の外交文化の一端を明らかにしたい。最終的に、それらを論文の形でまとめることを目指す。
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Causes of Carryover |
昨年度と同様、予定していた海外での調査や研究者との交流が、Covid-19の影響で全て中止となったことが、一番の理由である。本年度はその代わりに碑文集の収集や研究文献の購入を行ったが、結果として次年度使用額が残ることとなった。 次年度も、海外での調査などが引き続き難しい状況が続くと想定されるため、次年度使用額は史資料の購入および研究環境の整備に充てるつもりである。
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