2022 Fiscal Year Research-status Report
共同体の関係「断絶」にみる古代ギリシア世界の外交文化とその変遷
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19K13395
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
岸本 廣大 同志社大学, 文学部, 准教授 (20823305)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 古代ギリシア / ヘレニズム / ローマ / リュキア / 外交 / 碑文 / 書簡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、古代ギリシア世界における共同体の外交に着目し、そこで展開された外交文化を明らかにすることを目的とする。 本年度は、従来の文献資料のみならず、書簡や決議として碑文に残された外交交渉に注目した。そのうち、小アジアのリュキア連邦を対象とした成果が、国際的なワークショップで行った「How can we study the Koinon in Lycia? Focusing on Its sources and approaches」という報告である。この報告では、以下の3点について論じた。(1)連邦成立の契機となったロドスとの対立において、のちのリュキア連邦の加盟ポリス全体がロドスと敵対的ではなかった。また、帝政期には加盟ポリス同士の神話的な親族関係が、外交的な書簡では意図的に改変されていたことも確認できた。「リュキア人」意識は、連邦成立後もそれほど強固なものではなかった。(2)リュキア連邦における、クサントスとパタラという2つの「首都」の存在は、加盟ポリス同士の緊張関係を示しているのかもしれない。加盟ポリス同士では稀なイソポリテイア条約の存在は、こうした緊張関係を反映していると考えられる。(3)ローマ支配下のリュキア連邦では、加盟ポリス間でも関税が課されていた。この事例は、帝政期の都市間競争の文脈で捉えられるが、近年主張される連邦結成の経済的メリットや、ローマ支配下でのリュキア人エリートの一体化に反するように見える。帝政期の連邦組織の意義については、再考が必要であろう。リュキア連邦において、従来想定されていたよりも統合の度合いが低かったという以上の結論は、加盟ポリス間同士の「外交」の重要性を示すだろう。 他に、これまでの研究成果を専門外の読者に向けてまとめた書籍の一章を担当した。(長谷川岳男(編)『はじめて学ぶ西洋古代史』ミネルヴァ書房、123-141頁。)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、主にローマ時代のリュキア連邦における加盟ポリス同士の「外交」について研究した。そこからは、文献資料と碑文資料というメディアによって、加盟ポリス同士の関係の現れ方が異なることを確認した。こうした違いから外交文化の一端がうかがわれる。しかし、当初想定していた外交の場で行われる演説や過去の外交成果の「再利用」については、深く論じることはできなかったため、「やや遅れている」と判断した。その要因の一つは、海外での調査や情報収集の断念にあるが、検討に値するいくつかの碑文資料の存在は確認できている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の計画変更に従って、ヘレニズム時代からローマ時代にかけての外交の場におけるコミュニケーションとメディアの関係に焦点を当てて研究を進めている。今後は、本年度に進めきることができなかった演説や過去の外交成果の「再利用」について、検討を進める。具体的には、小アジアのプリエネとサモスの領域争い、および2000年代に新たに発見されたメッセネとメガレーポリスの領域争いに注目したい。この両事例の共通点から、「再利用」およびコミュニケーションとメディアの関係に注目して、当時の外交文化の一端を明らかにしたい。と同時に、両事例がギリシア本土と小アジアでみられたことから、異なる地域の外交文化という相違点にも目を向けてみたい。また、これまで中断していた海外での資料調査および研究者との情報交換を進め、それらを反映させた研究成果について、学会での報告と論文の執筆を進めたい。
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Causes of Carryover |
海外での調査や研究者との交流について、いまだ残るCovid-19の余波で中止としたことが、一番の理由である。本年度もその代わりに史料の収集や研究文献の購入を行ったが、結果として次年度使用額が残ることとなった。次年度には海外での調査を予定しているため、次年度使用額は主にその費用に充てるつもりである。
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