2023 Fiscal Year Annual Research Report
共同体の関係「断絶」にみる古代ギリシア世界の外交文化とその変遷
Project/Area Number |
19K13395
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
岸本 廣大 同志社大学, 文学部, 准教授 (20823305)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 古代ギリシア / ヘレニズム / ローマ / 外交 / 連邦 / 演説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、古代ギリシア世界における共同体の外交に着目し、そこで展開された外交文化を明らかにすることを目的とする。最終年度にあたる本年度は、アカイア連邦に加盟するメッセネとメガレーポリスの紛争の経緯を記した碑文(SEG LVIII 370)の分析に取り組んだ。2004年にメッセネで発見された碑文には、メッセネと近隣のメガレーポリスとの境界争いの経緯が詳細に刻まれている。その紛争の解決には、両ポリスが加盟していたアカイア連邦、そして連邦に加盟していなかったミレトスが関与していた。この史料の分析から、「断絶」しかけた外交関係の修復に関して、加盟ポリスの主体性および、それらが利用した外交的慣習を明らかにした。その成果の一部は論文として公刊された(「古代ギリシアの連邦と地域」『古代文化』第75巻第1号、2023年、108-116頁)。 本研究では全体をつうじて、ヘレニズム時代からローマの支配下の時期に至るまでの、ギリシア本土の諸ポリスの外交を扱った。そこでは、友好関係の構築や維持にとどまらず、非難の応酬や、対立した関係の修復といった事例を分析した。その結果、以下の点を明らかにした。(1)ギリシア人共通の過去や、それに基づいて「創られた」関係ポリスの関係が外交使節の演説において重要なレトリックとして機能した。(2)こうした使節のやりとりを通じて、そういった「過去」や「関係」が再生産され、ときには変容していった。(3)この「過去」や「関係」は、ローマの支配下に入ってもなお、その体制に適応する形で継続し、それに基づいて、いわば名目的な「外交」が継続した。
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