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2020 Fiscal Year Research-status Report

第一次世界大戦前夜ボスニア・ヘルツェゴヴィナ施政にみるハプスブルク支配の諸相

Research Project

Project/Area Number 19K13396
Research InstitutionFukuyama University

Principal Investigator

村上 亮  福山大学, 人間文化学部, 准教授 (80721422)

Project Period (FY) 2019-04-01 – 2023-03-31
Keywordsハプスブルク帝国 / ボスニア・ヘルツェゴヴィナ / サライェヴォ事件 / 豚戦争 / 第一次世界大戦
Outline of Annual Research Achievements

本研究は、第一次世界大戦前夜におけるハプスブルク帝国の支配の特質をボスニアの併合からボスニア憲法の制定に至る過程を糸口として浮かびあがらせることを目指すものである。本年度は2つの論考を発表した。
1点目は、オーストリア上院議員であり、ボスニアの現地事情に通じていたヨーゼフ・マリア・ベルンライターの著作に関するものである(「J・M・ベルンライターと南スラヴ問題 ―『ボスニアに関する所感』(1908年)を読む―」『大学教育論叢』第7号、95-116頁)。ここで明らかにしたのは、①ベルンライターが当時の帝国首脳に批判的な姿勢をとっていたこと。②既存のボスニア行政における問題点を喝破したうえで、ハプスブルク政権への現地住民の忠誠を得るために自治の拡充を提起したこと。③ベルンライターの構想は、ボスニアにとどまらず、外交政策にも関わる南スラヴ問題とも関連していたこと。④彼がボスニアにおけるハプスブルクの「文明化の使命」に疑問を持っていなかったことである。
2点目は、日本とハプスブルク関係を比較植民地研究という観点からボスニアと台湾の比較を試みたものである(「近代「植民地」における人と森林の付き合い方―ハプスブルク統治下ボスニア・ヘルツェゴヴィナを例として―」服部伸(編)『身体と環境をめぐる世界史: 生政治からみた「幸せ」になるためのせめぎ合いと技法』、人文書院、2021年、314-337頁所収)。具体的には、日本の台湾総督府官吏、市島直治がハプスブルク統治下ボスニアの森林政策を調査した報告書を検討した。考察の結果、①市島が森林政策を含めたハプスブルクの植民地経営を総じて高く評価していたこと、とくにハプスブルク政権による現地社会への「介入」が住民の福祉に貢献したと捉えていたこと、②市島が、統治政策が住民に及ぼした負の影響については総じて等閑に付していたことを明らかにした。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

本年度は、新型コロナ禍のために現地における資料調査を断念せざるをえず、国内における文献調査も部分的にしか行えなかったため、現有の史料、文献の読み込みに重点をおいた。かかる不利な状況のなかでは、順調に研究活動が進捗したと考えている。
この判断の理由として、研究課題の達成に貢献する論考を公にしたことである。まず本研究の基盤となる、ベルンライターに関する論考を発表できたことをあげたい。本稿においてベルンライターの手になる文献を検討したことにより、施政者に批判的な立場から併合当時のボスニア情勢、ボスニア統治が抱えていた諸々の課題を浮き彫りするとともに、ボスニア憲法の制定過程の検証に接続できたからである。またボスニア支配に「植民地」性を見出だす研究が近年増えているなかで、比較植民地研究の観点から、日本側からみたボスニア統治についての視座についても論考を完成できたことも収穫である。背景の相違には注意する必要があるものの、日本の台湾統治やアメリカのフィリピン統治がボスニア統治を先例とみていた事実を解明できたことを明記しておきたい。
なお本科研と間接的につながる成果のひとつは、第一次世界大戦の開戦責任をめぐるものである。すなわち、第一次大戦後に成立したオーストリアにおける大戦をめぐる開戦責任論争に光をあてた(「サラエヴォ事件の黒幕をもとめて:オーストリア第一共和制における開戦責任論争」大津留厚(編)『「民族自決」という幻影:ハプスブルク帝国の崩壊と新生諸国家の成立』昭和堂、2020年、295-315頁所収)。具体的には、開戦責任を認定したサン=ジェルマン条約が締結されるまでの経緯をおさえたうえで、オーストリア側による反論文書をとりあげ、当時の論争の一端を浮き彫りにした。本考察は、科研の主題の背景をなすハプスブルク帝国をめぐる「記憶文化」や歴史政策を念頭においていることを付け加えておきたい。

Strategy for Future Research Activity

2020年度の成果をふまえたうえで、以下の方針で研究を進める予定である。
第一は、前述の比較植民地研究に加え、生政治(フーコー)の観点を下敷きにしつつ、ハプスブルク政権による現地社会への介入を検討することである。現地を訪問した新渡戸稲造は、ハプスブルクが比較的早い段階で、当地に蔓延していた牛疫の撲滅に成功した点を高く評価していた。これをふまえつつ、牛疫をはじめとする獣疫対策とそれに関わる個々の家畜を把握する試み、ならびに豚戦争(1906-11年)期に展開された家畜台帳の作成に代表される密輸規制を糸口として、ボスニア農村を行政の管理下に置く試みとその帰結を解明する。
第二は、第一の点にも関わる、ハプスブルク側からの豚戦争の検討である。ハプスブルクとセルビアの関税戦争である豚戦争は、両国の関係悪化の起点であるとともに、第一次世界大戦の開戦原因をなす重要な事件である。従来の研究では、セルビアからの考察は行われてきたが、ハプスブルク側の動向については概説的な説明にとどまる。これに関しては、ハプスブルクの外交と経済のあらましをおさえたうえで、豚戦争期のハプスブルク側の対応とその問題を検証する。
第三は、併合からボスニア憲法の制定に至るまでの経緯を、帝国首脳、とりわけ共通外務相エーレンタールの視座から整理することである。具体的には、エーレンタールが国制のなかで主導権を掌握しようとする試みをおさえつつ、オーストリア国立文書館に残された未公刊文書を活用し、最高意思決定機関である共通閣議、それに準じる大臣連絡会議における協議内容を精査し、憲法制定への軌道を敷いたエーレンタールの動向を分析するものである。
なお以上については、検討に必要な主な史資料についてはすでに収集しており、新型コロナ禍のために今年度に現地調査が不可能になった場合でも、検討を進める準備が整っていることを付記しておきたい。

Causes of Carryover

2020年度は新型コロナの影響のため、海外調査を行うことができず、国内調査や研究報告も十分には行えなかった。2021年度以降の見通しも不明な点が多いため、状況に応じて使用計画を見直したいと考えている。

  • Research Products

    (4 results)

All 2021 2020

All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results,  Open Access: 1 results) Presentation (1 results) Book (2 results)

  • [Journal Article] 「J・M・ベルンライターと南スラヴ問題 ―『ボスニアに関する所感』(1908年)を読む―」2021

    • Author(s)
      村上亮
    • Journal Title

      『大学教育論叢』(福 山大学大学教育センター)

      Volume: 7 Pages: 95-116

    • Peer Reviewed / Open Access
  • [Presentation] ハプスブルクの「植民地」統治と日本 ――ボスニア・ヘルツェゴヴィナにおける森林政策を糸口に――2020

    • Author(s)
      村上亮
    • Organizer
      「第一次世界大戦における『模範国ドイツ』崩壊の日本に及ぼした影響の政治外交史的研究」(科学研究費 基盤研究(B)・代表:小林道彦)
  • [Book] 服部伸(編)『身体と環境をめぐる世界史: 生政治からみた「幸せ」になるためのせめぎ合いと技法』2021

    • Author(s)
      村上亮
    • Total Pages
      418頁(村上は314-337頁)
    • Publisher
      人文書院
    • ISBN
      9784409510872
  • [Book] 大津留厚(編)『「民族自決」という幻影: ハプスブルク帝国の崩壊と新生諸国家の成立』2020

    • Author(s)
      村上亮
    • Total Pages
      317頁(村上は295-315頁)
    • Publisher
      昭和堂
    • ISBN
      9784812220016

URL: 

Published: 2021-12-27  

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