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2021 Fiscal Year Research-status Report

第一次世界大戦前夜ボスニア・ヘルツェゴヴィナ施政にみるハプスブルク支配の諸相

Research Project

Project/Area Number 19K13396
Research InstitutionFukuyama University

Principal Investigator

村上 亮  福山大学, 人間文化学部, 准教授 (80721422)

Project Period (FY) 2019-04-01 – 2023-03-31
Keywordsハプスブルク / セルビア / ボスニア・ヘルツェゴヴィナ / 豚戦争 / サライェヴォ事件 / 第一次世界大戦
Outline of Annual Research Achievements

本研究は、第一次世界大戦前夜におけるハプスブルク帝国の支配の特性を、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ(以下、ボスニア)の併合からボスニア憲法の制定に至る過程を糸口として解明することを目指すものである。本年度は1つの論考を発表するとともに、別の論文を執筆、投稿した。
第一は、前年度より取り組んできた比較植民地研究、ならびに生政治(フーコー)の観点を糸口として、ハプスブルク政権によるボスニア社会への「介入」の検討である。具体的には、日本やアメリカなど同時代の植民地支配国から高い評価を与えられていた家畜衛生政策を検討した。本稿では、牛疫を中心とする家畜の病気に対する対策を概観しつつ、ハプスブルクとセルビア間の関税戦争、いわゆる「豚戦争」(1906-11年)の時期に大々的に展開された家畜台帳の編纂をはじめとする密輸対策を論じた。分析に際しては憲兵というファクターに注目し、ボスニア農村への介入を跡づけた。以上の成果は『東欧史研究』第44号に掲載された。
第二は、上述の豚戦争に至るハプスブルク側の動向である。ハプスブルクとセルビアの関係は第一次大戦の開戦原因を考えるうえで不可欠の要素であり、両者の関係悪化の端緒が豚戦争である。従来、ハプスブルクとセルビアの対立については民族問題(南スラヴ問題)に注目が集まりがちだったが、本稿ではその点を念頭におきつつ、両者の政治、経済的対立に焦点を絞った。ここでは本稿の特色として、国内外の先行研究においてはほぼ等閑に付されてきた豚戦争に至るハプスブルク側の要路者の動向への注目、ハプスブルクが対外貿易において直面した家畜衛生に関する問題、ならびに農業界の動向についての詳細な検討、ならびに近年の第一次大戦の開戦責任論争におけるセルビアへの批判に対する反論をあげておきたい。この成果についてもすでに学会誌に投稿し、現在は所見内容をふまえた修正作業を進めている。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

昨年度に引き続き本年度も、新型コロナ禍のために現地調査を行なえず、また国内における文献調査も十分ではなかった。そのため史料の購入を進めるとともに、入手済みの史料、文献の読み込みに重点をおいた。この状況のもとでも、順調に研究活動が進捗したと考えている。
この判断の理由としては、研究課題に関わる論考を1点(『東欧史研究』)完成できたことがある。ボスニア支配を比較植民地統治という糸口から検討することは本研究の特色であり、家畜衛生政策は、昨年度の公表した森林政策とともにその中核をなすものである。森林と家畜はいずれもハプスブルク本国とボスニアの経済的関係を強化するとともに、それは他の国家でもみられた、植民地的な支配=従属関係にボスニアをおくものでもあった。そのなかでオーストリアとハンガリーという「2つの本国」の利害が衝突してゆく点に他の植民地支配との相違点がある。ボスニア統治と一般的な植民地統治の共通点と相違点を解明するうえで、本稿の完成は重要な意義をもつ。
また、ボスニア統治と間接的に関わる豚戦争の論考を学会誌に投稿できたことも判断の根拠である。とくに豚戦争は、筆者が長年にわたり取り組み、本研究課題と不可分である第一次大戦の開戦原因論に関わるものである。豚戦争は、ハプスブルクとセルビアの関係悪化の端緒として第一次大戦の開戦原因として見逃しえないため、本稿の公刊はハプスブルク史、第一次大戦へと至る外交史に寄与するところがきわめて大きいと考える。所見に基づく修正を可及的速やかにおこなう予定である。
最後にあげたいのは、現地調査ができない分、研究文献の読み込みが進められたことである。とくに第一次大戦後におけるハプスブルクの歴史的評価の変遷をたどることができたのは、それがボスニア統治やそれにかかわる第一次大戦の開戦原因、あるいは開戦責任論とつながるため意義のある成果と考える。

Strategy for Future Research Activity

昨年度の成果と昨今の情勢をふまえ、今年度は手元にある資料の読み込みと研究成果の論文への整理を軸として計画を推進する。
第一は、修正中である豚戦争の論考の公刊である。前述の通り、豚戦争は第一次大戦の開戦原因のなかで見逃しえない要素であるにもかかわらず、セルビア語以外の言語での研究はほぼ見当たらない。この点をふまえると学問的な意義はきわめて大きいと考える。
第二は、ボスニア併合(1908年)、ならびにそれ以降のハプスブルク=セルビアの関係史の整理である。前述の通り、この両国の関係は第一次大戦の開戦原因と責任を考察するうえで不可欠であるが、既存の研究では十分に考察されていない。豚戦争論文をふまえつつ、大戦前史における大きな転換点、ハプスブルクによるボスニア併合にともなう外交危機を先行研究、ならびに外交文書を手がかりとして考察を進める。また将来的には、ハプスブルク外交研究の基本史料に位置づけられる『オーストリア=ハンガリーの外交政策1908-1914』(1929年)が編纂される経緯も検討してみたい。
第三は、ボスニア憲法の制定に向けた関係文書の整理と読み込みである。研究活動全体通してこの作業を行なっているものの、この2年間は現地での調査ができておらず、今年度もその見込みが立たない状況にある。それをふまえ、入手している政府関係資料の読み込みに加え、同時代の法学者が執筆したボスニア憲法に関わる論考を精読し、ハプスブルク独特の国制(二重制)におけるボスニアの位置づけの考察を進める。
第四は、日本=ハプスブルク関係史において重要な意義をもつフランツ・フェルディナント大公の日本訪問の検討である。これに関しては、2019年度の日本ドイツ学会で発表したが、その後の調査で新たに複数の未公刊資料を入手できた。これを活用し、日本とハプスブルク双方の立場から大公訪日の意義の解明を目指したい。

Causes of Carryover

次年度使用額が生じたのは、新型コロナ禍のため、昨年度と同様に現地調査を行なえなかったことが最大の理由である。今年度は現地調査を予定しているが、不可能な場合には同時代文献や刊行史料を含めた研究文献などの購入を計画している。

  • Research Products

    (3 results)

All 2022 2021

All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results,  Open Access: 1 results) Presentation (1 results) Book (1 results)

  • [Journal Article] 「文明化」の一環としての家畜衛生政策―世紀転換期ボスニア・ヘルツェゴヴィナにおける実践―」2022

    • Author(s)
      村上亮
    • Journal Title

      東欧史研究

      Volume: 44 Pages: 67-76

    • Peer Reviewed / Open Access
  • [Presentation] 「「文明化」の一環としての家畜衛生政策―世紀転換期ボスニア・ヘルツェゴヴィナにおける実践―」2021

    • Author(s)
      村上亮
    • Organizer
      東欧史研究会(2021年度大会:近代社会における身体の管理)
  • [Book] 中欧・東欧文化事典(「フランツ・フェルディナントと日本」(694-695頁)を担当)2021

    • Author(s)
      中欧・東欧文化事典編集委員会、羽場 久美子(他・編)
    • Total Pages
      768
    • Publisher
      丸善出版
    • ISBN
      9784621306161

URL: 

Published: 2022-12-28  

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