2022 Fiscal Year Research-status Report
古代アンデスの大型家畜利用の変遷とその社会的背景に関する生物考古学研究
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19K13398
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
瀧上 舞 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, 研究員 (50720942)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ラクダ科動物 / 古代アンデス / 同位体分析 / トウモロコシ / 食性推定 / 出身地推定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はアンデス地域における家畜化されたラクダ科動物(リャマとアルパカ)の伝播から古代アンデス社会の発展を考察する目的で、アンデス形成期(紀元前3000-前50年)に利用された神殿遺跡(祭祀建造物を伴う遺跡)において、ラクダ科動物の飼育導入時期の同定や、その飼育方法を調査している。骨コラーゲンの炭素・窒素同位体比分析から食性推定を、歯のエナメル質のストロンチウム同位体比から出身地推定を行う。2021年度までにクントゥル・ワシ遺跡出土動物骨の一部のデータの分析を終えていた。その結果からは、先行研究で報告しているパコパンパ遺跡と比較して、クントゥル・ワシ遺跡ではラクダ科動物の飼育の開始時期が遅い可能性があること、また飼育活動開始初期はトウモロコシの餌としての利用の方法が遺跡によって異なっていることが明らかになった。 2022年度は、クントゥル・ワシ遺跡出土動物骨の飼育地推定のためにストロンチウム同位体比の分析を進め、分析可能な試料はすべて分析を終えることができた。その結果、クントゥル・ワシ遺跡から出土したラクダ科動物の大半は、遺跡周辺の飼育地で飼育されていたことが明らかになった。さらに、ラクダ科動物が登場するクントゥル・ワシ期(紀元前800-前500年)には限られた飼育地しか存在していなかったが、コパ期(紀元前500-前250年)に飼育地が増えたこと、またパコパンパ遺跡と同様に遠方の飼育地から連れてこられた個体が存在したことなどが示唆された。したがって、形成期後期(紀元前800-前250年)には、ペルー北部高地の複数の神殿において、独自のラクダ科動物飼育が開始されたことが明らかとなった。これらの結果は日本人類学会大会や古代アメリカ学会大会、また南米ラクダ科動物の国際ワークショップなどで成果報告を行った。現在は論文を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は予定していた分析を実施し、国内の学会や国際ワークショップでの発表、また論文の公開など、研究は順調に進行した。データの層も厚みを増し、ラクダ科動物飼育のペルー北部地域への伝播の実態解明がまた一歩進んだ確かな手ごたえがある。また、3年ぶりにペルーに渡航できたことで、ペルー文化省への報告書の提出や、分析済み試料の返却も実施できた。 ただし、2020年・2021年のコロナによる国内・国際移動の制限、また代表者の所属機関変更に伴う実験設備の調整などの問題から、2019年度の夏期調査で採取したコトシュ遺跡の試料分析が思うように進んでいない。研究課題は2022年度までの予定であったが、上記の理由から1年延長と一部基金の繰り越し申請を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況の欄で研究の遅れている箇所について記載した通り、2023年度は分析が終わっていないコトシュ遺跡の動物骨の分析を終わらせる予定である。コトシュ遺跡はパコパンパ遺跡やクントゥル・ワシ遺跡より少し早い時期(形成期早期~中期)に利用された遺跡であり、その遺跡におけるラクダ科動物飼育の実態が明らかになれば、トウモロコシを餌とする飼育の広がり方の良い指標になると予想される。すでに試料は採取して日本に持ってきているため、食性推定と飼育地推定を実施する。 また、クントゥル・ワシ遺跡においては、最下層のためこれまで動物骨試料が十分に出土していなかったイドロ期の層が2022年度の調査で発掘され、複数の動物骨が新たに発見された。2023年度にその資料の分析が間に合えば、パコパンパ遺跡と同様に形成期中期(紀元前1200-前800年)のラクダ科動物の利用状況に迫れる可能性がある。 これらの分析により、神殿遺跡における形成期のラクダ科動物利用の実態を明らかにし、神殿の活動時期と飼育有無やその管理の推定から、神殿活動にラクダ科動物がどのように寄与していたのかを検証する予定である。
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Causes of Carryover |
2023年度に分析するべき試料が残っていることから、その分析・測定関連費用、および成果発表関連費用として次年度使用額を繰り越している。
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