2019 Fiscal Year Research-status Report
Stone Distribution System in the Stone Vessel Production during the Period of State Formation
Project/Area Number |
19K13407
|
Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
竹野内 恵太 東海大学, 文学部, 特別研究員 (30778684)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | エジプト初期王朝時代 / 石製容器 / 供給体制 / 生産体制 / 石材 / 未成品 / 製品 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、エジプト初期王朝時代の石製容器生産における石材産地から加工地への未成品供給のシステムを実証的に解明することである。そのため、(1).既報告資料および未報告資料から製品のサイズ・器形・石材のデータベースを各出土遺跡ごとに作成したうえで、(2).採石地で表採された未成品の規格を算出し、(3).それら製品と未成品の規格を比較することで石製容器の供給システムを解明する。 当該年度では、まず遺跡・地域ごとに副葬された石製容器のサイズ(器高/口縁部径)を計測し、整理し、且つ未報告資料を実見調査することで一次資料のデータも追加した。これによって、各遺跡出土の製品の規格(プロポーション・サイズ)と既報告資料である採石地採集の未成品の規格を比較し、その類似度を分析した。製品規格の算出は当該年度でほぼ完了しており、消費地出土の製品の様相はすでに捉えている。具体的には、大型規格の未成品ほどメンフィスおよびアビドス地域といった当時の首都圏域へ供給され、それ以下のサイズ規格ほど小・中規模から出土している。ただし、実態としては、首都圏域およびデルタやヒエラコンポリスといった中央行政管轄の御料地・私有地に生産拠点が置かれていたことが概ね捉えられたため、小・中規模の地方遺跡出土の石製容器は製品が供給されていた。一方で、デルタ地域の諸遺跡から出土した石製容器は明らかに小型~中型品から成ることを考慮すると、中央行政管轄の中でも首都圏域とその他では未成品規格の供給はサイズによって差別化されていたと見るべきである。このように、未成品や製品は、政治経済的な序列的供給システムによって動いていたと考えた。 農耕生産物やその二次的加工品の物流は文字資料から考察が行われてきた。器物生産供給は不明瞭であったが、以上のように、石製容器の生産供給体制に関してある程度の大枠を捉えつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度で既報告資料のデータベースの作成が完了するとともに、またカイロ・フランス考古学研究所に収蔵されている一次資料のデータも追加することができた。そのうえで、未成品の既報告資料とサイズ規格を比較したことで、採石地調査の前段階において分析・考察を順調に進めることができた。 また、対象時期の遺跡出土の製作用石製工具と未成品(原・初期王朝時代)を実見調査したことで、当時の生産体制について理解を深め、供給体制についても分析・考察の深化を図ることができた。石製工具が出土したのは、初期王朝時代において数少ない石製容器の製作遺構が検出されているヒエラコンポリスにおける都市遺跡(ネケン・エリア)である。当初、当該遺跡出土資料の調査は計画していなかったが、資料調査の許可を得たため、当該年度に実施した。当時、中央行政管轄であった都市遺跡の製作遺構から出土した石製工具や未成品は、供給と生産をつなぐ重要な資料である。 加えて、フランス考古学研究所においてもアブ・ロアシュ遺跡M墓地出土の石製容器において製作過程を示す資料を確認した。両遺跡の資料の実見調査に基づくことで、未成品から製品への加工処理の段階を具体的な資料から分析することができ、より詳細な供給体制像を構築することを可能となった。 ただ、【研究実績の概要】(2)~(3)では既報告資料との比較に終始している状態で、採石地への踏査は未着手であることを考えると、おおむね順調に進展していると評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
当該年度ではデータベースの作成およびそれに基づいた製品規格の分析は完了している。よって、消費地における製品の生産の様相は捉えられてきた(【研究実績の概要】の(1))。【研究実績の概要】の(2)~(3)に関しても未成品の既報告資料との比較によって暫定的な結論を出した。ただし、採石地表採の未成品との比較、つまり供給地との関係性の解明にとって、他石材・他産地における未成品の様相については、さらなる一次資料の追加の必要が不可欠であるため、次年度では実際に採石地の踏査を実施する計画である。なお、踏査が状況により困難になった場合は、博物館や遺跡収蔵庫の所蔵資料に含まれている未成品を重点的に実見調査することで補完する。 同時に、カイロ・フランス考古学研究所(アブ・ロアシュ遺跡出土資料)およびヒエラコンポリス遺跡における実見調査は継続して行っていく。考察段階において資料的に不足していることがわかれば、それを補足する形で調査を進める予定である。また、両遺跡からは未成品に近いもの、あるいは製作過程の痕跡を色濃く残したままである製品が出土している。これらに重点を置いてその製作技法とサイズ規格を引き続き精査することで、未成品の供給体制をより詳細な観点から考察を加えることが可能となる。
|