2019 Fiscal Year Research-status Report
固溶体鉱物を利用した土器胎土を構成する粘土と混和物の起源推定法の確立
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19K13410
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
市川 慎太郎 福岡大学, 理学部, 助教 (90593195)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 土器 / 固溶体鉱物 / 起源推定 / 混和材 / X線回折分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
原料の粘土と混和物とを分離した高精度な起源推定法の確立を目指して、桧の木遺跡から出土した阿玉台式土器中に含まれる鉱物から、粘土および混和材を特徴付ける「指紋鉱物 (土器の分類に有効な鉱物)」を決定した。桧の木遺跡出土の縄文土器77点(阿玉台式59点、同時代のその他の型式18点)をX線回折法で分析し、含有鉱物を明らかにしたところ、土器の型式に関わらず、全ての土器に石英 (SiO2) と斜長石 ((Ca,Na)Al(Al,Si)Si2O8)、一部の土器に普通角閃石 (Ca2[(Mg,Fe)4Al](Si7Al)O22(OH)2) が含まれていた。一方、黒雲母 (K(Mg,Fe)3AlSi3O10(OH,F)2) は、阿玉台式土器にのみ検出され、同遺跡出土のその他の型式の縄文土器18点には見られなかった。これは、阿玉台式土器に黒雲母を含む混和材が意図的に加えられことを示唆している。今回の土器に含まれていた黒雲母、角閃石および斜長石は、固溶体鉱物である。固溶体鉱物は、端成分鉱物の混合比が異なると、結晶格子内に取り込まれるイオンの半径が変化するので、それに伴って格子面間隔がわずかに増減し、ピーク位置がシフトする。すなわち、ピーク位置を精度よく定量すれば、固溶体鉱物の組成を追跡することが可能である。この組成が起源となる地質を反映するのと考えられるので、粘土および混和物由来の鉱物の地域性を、個別かつ詳細に記載できるはずである。したがって、阿玉台式のみ含まれていた黒雲母は混和材、型式に関わらず含まれていた斜長石や角閃石は粘土や混和材の起源を示す指紋鉱物になり得ることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度研究計画では、(1) 桧の木遺跡出土の縄文土器 77 点 (阿玉台式 59 点、同時代のその他の型式 (加曽利EIなど) 18点) を X 線回折法で分析し、含有鉱物を明らかにすること、 (2)阿玉台式土器を、同遺跡・同時代に由来するその他の型式の縄文土器と比較することで、「混和物に由来する鉱物 (= 阿玉台式のみに含有する鉱物)」と「粘土に由来する鉱物 (= 型式に関わらず含有する鉱物)」を推定し、その中から固溶体をとる鉱物を指紋鉱物の候補とすることが目標であった。「研究実績の概要」で記載したようにこの研究計画は達成できたので、進捗状況は概ね順調であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、固溶体鉱物の産地、組成、X線回折分析におけるピーク出現位置に関連性があることを明らかにする。まずは、本研究で実試料として用いている阿玉台式土器を特徴づけている黒雲母に着目し、混和材の起源推定法確立を目標とする。このために、産地の異なる黒雲母を用いて上記の関係性を調査する。模擬試料には、岩石標本のうち、茨城県、愛知県、京都府、鳥取県、岡山県、香川県および長崎県で産出した黒雲母を含有する岩石を使用する。各標本を細かく粉砕した後、ポリタングステン酸ナトリウム水溶液による重液分離で黒雲母片を単離する。単離した黒雲母片をX線回折法で分析し、ピーク出現位置を正確に測定する。さらに、蛍光X線法で分析し、固溶比を明らかにする。各岩石標本に由来する黒雲母の固溶比とピーク出現位置を比較し、産地、固溶比およびピーク出現位置に関連性があることを示す。 2021年度は、黒雲母のX線回折法におけるピーク出現位置を用いて、桧の木遺跡から出土した阿玉台式土器の混和材の産地を推定する。まず、桧の木遺跡の阿玉台式土器をX線回折法で分析して、黒雲母のピーク出現位置を正確に決定する。混和材の候補として桧の木遺跡に隣接する筑波山周辺の河川砂37点に含まれる黒雲母のピーク出現位置を、桧の木遺跡出土土器のものと比較することで、同遺跡の阿玉台式土器の混和材の産出地を明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
交付額が申請額よりも減額されたが、申請通り設備備品(遊星型ボールミル)を購入し、その他の消耗品の購入や旅費の支出のために前倒し支払い請求を実施した。前倒し支払い請求に伴い次年度以降の交付予定額が減額するため、一部の消耗品の購入を見送り、代替品の使用を考えていた。しかし、2019年度に購入予定であった一部の消耗品を、大学内の予算で購入することができたため、15万円程度を次年度に繰越すことができた。この繰り越し分は、当初購入を控える予定だった消耗品に使用する予定である。繰り越し分以外の当該年度以降の請求分は、当初の申請通りに使用することを予定している。
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Research Products
(15 results)