2021 Fiscal Year Research-status Report
Develpment of a new cleaning medhod uging cellulose nanofiber for paper artifact with copper corrosion
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19K13421
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
貴田 啓子 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 准教授 (20634918)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 紙の保存修復 / セルロースナノファイバー / 緑青焼け |
Outline of Annual Research Achievements |
紙質文化財の顕著な劣化現象のひとつに、色材由来の金属イオンによる紙の酸化劣化、すなわち紙の「焼け」がある。日本の文化財修復処置の現場では、「焼け」に効果的な処置方法が見出されておらず、水による洗浄のみを行っている。紙の「焼け」による劣化の主要因は金属イオンであるため、洗浄の際には、積極的に除去する必要がある。本研究では、劣化の原因物質である金属イオンを、植物繊維由来のTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)のゲルにより捕獲し、文化財資料に金属イオンを残さない洗浄処理を検討することを目的とする。 本年度は、前年度に追加で高温高湿度雰囲気で加速劣化劣化を促進させて作成した、焼け試料について、どの部分に金属イオンが分散しているかを明らかにするために、試料を分解、分析を進めた。紙質文化財試料は、ほとんどの場合、紙1枚ではなく、裏打ち紙等で補強された層構造をもっていることが多い。裏打ち層の有無および層数によって、絵画層に残る金属イオンの量が異なることがわかった。一方、TOCNの調製では楮の靭皮繊維を用いた場合には、TEMPO酸化によるカルボキシル基の増加量を、もともと存在するウロン酸量がカルボキシル基として検出されるために、明確には確認できなかったが、初期量を差し引くことで増加量を概算する手法にて、TEMPO酸化の程度の確認を行うことを検討し、概算で進めることとした。また、市販の針葉樹パルプ由来の繊維を用いたTOCNでゲルの作成を試みたが、紙試料の洗浄に伴うハンドリングに耐えうるゲルの作成に至っていないため、調製条件の検討を続ける予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度、新型コロナウィルス感染防止策の観点から、外部のアルバイトの人員が研究室に入れない時期があったため、試料の作製が滞っていた。そのため研究が遅れていたが、今年度途中より、状況が緩和され、ゲルの作製と洗浄処置を担当するアルバイトを進めることが出来た。しかし、昨年度大幅に遅れた部分を完全に取り戻すまでには至っておらず、研究全体としてはやや遅れている状態である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、加速劣化試料の作製に時間がかかってしまったことに加え、ゲルの作製と洗浄実験が進められなかったため、当初、予定していなかった加速劣化試料そのものの分析を進め、試料中の緑青焼けに起因する銅成分の挙動を把握することが出来た。 当初は、絵画試料上の緑青顔料に由来する銅成分の除去には、表面からのゲル洗浄のみを検討する予定であった。しかし、紙の層構造を持つ絵画資料においては、顔料絵具由来の銅成分が層構造の中を移動する可能性を見出したため、絵画の裏面からの洗浄も、同時に検討していく予定に変更した。文化財資料においては、表面の絵画層に処置を施すよりも、裏面からの処置のほうがリスクは軽減される。今年度からは、ゲルの使用方法として、表面、裏面の両方の処置を比較検討してくことも含めて進めていくこととする。一方、洗浄処置のハンドリングに耐えうるゲルのについても、絵画層である表面にゲル処置を施す場合と、裏面に施す場合において、ハンドリングが大きく異なることがわかった。裏面の処置のほうが、ゲル洗浄後の除去作業において、ゲルの残留を回避する観点からは非常に有利であることがわかり、ゲルの残留物を分析し、表面からと裏面からの処置を比較検討を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染予防対策にて、該当の実験室の入室人数が大幅に制限されたため、実験作業担当者の作業時間を確保できなかった。そのため、次年度にその使用を延長したため使用計画が次年度までずれこんでしまった。
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