2023 Fiscal Year Annual Research Report
Basic Research on Experiments for Prevention of Acidification Utilizing Washi
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19K13424
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Research Institution | Tohoku University of Art and Design |
Principal Investigator |
元 喜載 東北芸術工科大学, 文化財保存修復研究センター, 講師 (90796202)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 保存科学 / 保存修復 / 酸性化 / 紙の酸性防止 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の博物館や図書館では、木材パルプを使った紙資料の酸性化問題が深刻で、この問題は日本のみならず世界各国で抱えている。特に、第二次世界大戦の前後、多くの国が内戦、もしくは他国との戦争となり、物資の調達が困難であった。製紙業界も打撃を受けて、紙の製作に用いる紙原料の質が低下するほか供給も難しい時代だった。上記の理由から、この特定な年代に作られた新聞や雑誌などの紙資料群は酸性化が著しく生じており、現在は取り扱いが困難な状況である。しかし、国立機関の除く多くの所蔵館は予算や人材不足により大切な資料を放置せざるを得ない状態に直面している。実際、日本を含め多くの国は取り扱いができない資料群はデジタル化を行い、データのみ公開している。しかし、処置を施さない資料の劣化は進行していき、いずれは資料の消滅に繋がる可能性が高いため、何らかの形で処置を施すことが望ましいが、現在の方法だと膨大な予算や専門知識を要することが多いため、地方自治体の機関ではできない状態である。 その中で注目したのが、日本の巻物の裏打ちに用いる美栖紙、宇陀紙である。これらの紙は製紙工程の際にアルカリ性質(美栖紙:胡粉、宇陀紙:白土)の填料を入れるため、紙そのものがアルカリ性質を帯びる。実際、日本では巻子や掛軸などの裏打ちにこれらの紙が用いられ、作品の酸性化を抑制していることが知られている。これらの情報は文献調査および聞き取り調査にて効果を確認することができた。すなわち、近現代の紙資料群の酸性化問題の対策として美栖紙、宇陀紙の活用が有効だと考えられるため、今後は美栖紙や宇陀紙を用いての活用方法についての研究が期待される。
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